傾斜地マンション 問題点
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地下室(傾斜地)マンションの問題点とは? 売却時の注意点を解説

執筆者プロフィール

悠木まちゃ
宅地建物取引士

ライター・編集者。ハウスメーカー勤務時に、新築戸建て住宅のほか、事務所建築や賃貸アパートの営業・設計を経験。
その後、2019年よりフリーライター・編集者として活動を開始。実務経験を活かし、不動産・金融系を中心に執筆から編集まで行う。ブックライターとしても活動するほか、ライター向けオンラインサロンの講師も担当している。

ざっくり要約!

  • 地下室マンションとは、地階部分に住戸を持つ共同住宅のことで、主に高低差のある傾斜地に建てられています。
  • 地下室マンションの問題点としては、法改正により現在の建築基準に適合しなくなる問題や、修繕費が高いこと、災害リスクや湿気の問題が挙げられます。
  • 売却をする際は、問題点だけでなく眺望の良さやプライバシー確保などのメリットを把握しておくことが重要です。

地下室のあるマンションは、その特殊な構造から売却が難しいのではと考える方もいるでしょう。特に傾斜地に建てられた物件は、一時期に建設が急増した背景もあり、特有の事情が存在する点を理解しておく必要があります。

この記事では、地下室マンションが増えた経緯や指摘されている問題点のほか、売却をスムーズに進めるための注意点やポイントを解説します。ぜひ参考にしてください。

地下室(傾斜地)マンションとは?

地下室(傾斜地)マンションとは、高低差のある斜面地などを利用して建てられた、地階部分に住戸を持つマンションのことです。

平坦な土地が限られる都市部では、斜面地の地下空間は貴重です。建築基準法では、天井高の3分の1以上が平均地盤面より下にある階を「地階(地下室)」と定義しています。この定義を利用し、土地を有効活用する手法として地下室マンションが生まれました。

ここでは、地下室マンションが急増した背景や関連する法改正、現在の状況について解説します。

1994年・1997年建築基準法改正

地下室マンションが注目されるきっかけとなったのが、1994年と1997年に行われた建築基準法の改正です。

1994年の改正では、建物の延べ床面積の3分の1を上限に、地階部分を容積率の計算から除外できる規制緩和が行われました(現行の建築基準法第52条3項)。この緩和はマンションにも適用され、地下空間を利用して床面積を増やすことが可能になりました。

さらに1997年の改正で、マンションの廊下や階段などの共用部分も容積率の計算対象から外れます(現行の建築基準法第52条6項)。地下と地上を結ぶ導線上において共用部分は不可欠であり、これが容積率から除外されることで、地下室の設計がよりしやすくなりました。

この2度の法改正が、地下室マンションの建設を後押しする要因になったといえます。

地下室マンションが急増した理由

二度の法改正による容積率の緩和は、高さ制限のある「第一種低層住居専用地域」などでは、デベロッパーにとって大きなメリットとなりました。

本来であれば3階建て程度の建物しか建てられないような土地でも、地階を設けることで実質的な階数を増やし、販売戸数を増やして事業性を高めることができたのです。

また、斜面地は平坦な土地に比べて価格が安い傾向にあり、建築コストを考慮しても、より多くの住戸を供給できる地下室マンションは、事業者にとって採算の取りやすい事業です。

このように、法的な規制緩和と経済的なメリットにより、1990年代後半から2000年代前半にかけて、首都圏の郊外を中心とした斜面地で地下室マンションが急増しました。

地下室マンションの現在

かつて急増した地下室マンションですが、日照や景観、防災面での問題が指摘され、近隣住民とのトラブルに発展するケースも少なくありませんでした。

こうした状況を受け、横浜市をはじめとする多くの自治体では、2004年頃から地下室マンションの建築を規制する独自の条例を制定しました。 建物の階数や盛土(もりど)などが厳しく制限され、現在ではかつてのような大規模な地下室マンションを新たに建設することは難しくなっています。

そのため、不動産市場で現在流通している地下室マンションの多くは、条例が制定される前に建てられたものです。売却を検討する際には、このような建設当時の時代的背景や、現在の法規制との関係性を理解しておくことが大切です。
参考:横浜市|地下室マンション条例

地下室マンションの問題点

地下室マンション 問題点

地下室マンションは、その特殊な構造や立地から、一般的なマンションとは異なる問題点が存在する場合があります。売却を検討する際には、以下の4つの問題点を把握しておきましょう。

  • 既存不適格にあたる可能性がある
  • 修繕費が高い傾向にある
  • 災害リスクが高い可能性がある
  • 湿気が高い

既存不適格にあたる可能性がある

「既存不適格」とは、建設された当時は適法であったものの、その後の法改正や新たな条例の制定によって、現在の法律や条例の基準に適合しなくなった建物のことを指します。 地下室マンションの場合、前述した自治体独自の条例が施行される前に建てられた物件が、この既存不適格に該当する可能性があります。

既存不適格であること自体が違法建築というわけではないため、そのまま住み続けたり、売買したりすることは可能です。しかし、買主にとっては将来の建て替えやリフォームが制限される可能性があるほか、住宅ローンの審査が厳しくなる要因にもなります。

そのため、売却時には物件が既存不適格に該当するかどうかを調査し、買主に対して告知することが、後のトラブルを避けるうえで重要です。

修繕費が高い傾向にある

地下室マンションは、構造上、修繕費が一般的なマンションよりも高くなる傾向があります。地下部分の外壁は常に土に接しているため、雨水の侵入を防ぐための防水工事や、湿気対策のための換気設備のメンテナンスが欠かせません。

特に、擁壁や排水ポンプといった、斜面地の安全のための設備には専門知識が必要であり、定期的な点検や交換にコストがかかります。

こうした費用はマンション全体の修繕積立金から支出されるため、売却価格にも影響を与えます。購入を検討する人にとって、修繕費用の負担は懸念材料になることが考えられます。

災害リスクが高い可能性がある

傾斜地に立地している地下室マンションは、災害リスクにも注意が必要です。集中豪雨の際には、地上の雨水が地下のドライエリアや住戸に流れ込み、浸水被害を引き起こす可能性があります。 また、斜面地であるため、土砂災害のリスクも平坦な土地に比べて高いといえるでしょう。

多くの物件では排水ポンプの設置や擁壁の設置といった対策が講じられているものの、設備の経年劣化などは生じます。また、想定を超える規模の災害が発生した場合には、被害を防ぎきれないことも考えられるでしょう。

売却の際には、ハザードマップで物件所在地の災害リスクを確認し、過去の被害履歴の有無と合わせて、買主に正確な情報を提供しましょう。

湿気が高い

地下にある空間は、地面からの水分や温度差による結露によって、湿気がこもりやすくなります。 湿気が多い環境は、カビの発生や建材の劣化を招くだけでなく、アレルギーの原因になるなど、健康面に影響を及ぼす可能性も否定できません。

この問題に対処するため、多くの地下室マンションでは「ドライエリア(からほり)」と呼ばれる空間が設けられています。 建物の周囲の地面を掘り下げることで生じる空間で、地下室への採光や通風を確保する役割を果たします。

しかし、ドライエリアがあっても、換気扇などの機械換気システムが十分に機能していなければ、湿気の問題を完全に解消するのは難しい場合があります。 売却時には、換気設備のメンテナンス状況などを伝え、買主の不安を解消することが大切です。

地下室マンションを売却する際の注意点

地下室マンションには特有の問題点が存在するものの、それを踏まえた売却戦略を立てれば、スムーズに取引を進めることも可能です。ここでは、地下室マンションの売却をする際のポイントを3つ解説します。

  • 社会的背景を理解する
  • 地下室マンションのすべてが問題を抱えているわけではない
  • 実績の多い不動産会社に依頼する

社会的背景を理解する

地下室マンションの売却をする際には、その物件が建てられた社会的背景を理解することが重要です。地下室マンションは、1990年代の建築基準法改正を背景に、都市部の限られた土地を有効活用する手法として生まれました。

この経緯を把握しておくことで、問題のある物件という否定的な側面でなく、当時の合理的な判断から建てられた物件であるという視点を持つことができます。

こうした背景知識があると、購入希望者に対して物件の成り立ちを説明する際の、説得力が増します。なぜこの場所に、このような形で建てられたのかを説明できれば、買主の不安を和らげられるかもしれません。

地下室マンションのすべてが問題を抱えているわけではない

地下室マンションにはデメリットがある一方で、特殊な立地や構造ならではのメリットも存在します。

例えば、斜面地に建てられていることによる眺望の良さや、地上階数が少ないことによるプライバシーの確保などが挙げられます。 また、地中に位置する地下室は、すぐれた防音・遮音性を発揮するため、楽器の演奏やホームシアターを楽しみたい人にとっては魅力的な空間です。

売却を成功させるためのポイントは、こうした物件ならではの価値を正しく評価し、それを求めている層にアピールすることです。そのためにも、物件の価値を客観的な視点で把握することが大切です。

実績の多い不動産会社に依頼する

地下室マンションの売却は、一般的な物件と比べて専門的な知識が求められます。特有の法規制や構造上の注意点、潜在的なリスクなどを理解した上で、適切な価格設定をし、販売戦略を立てなければなりません。 そのため、売却を依頼する不動産会社選びが重要です。

見るべきポイントは、地下室マンションや類似物件の取り扱い実績が豊富かどうかです。 実績のある不動産会社は、これまでの経験から、どのような点が買主の懸念材料になりやすいか、どのようなアピールが効果的かを熟知しています。

実績豊富な不動産会社に依頼できれば、地下室マンションが誕生した経緯や現状の問題、メリット、デメリットなどを踏まえたうえで効率的に売却を進めてもらえるでしょう。

まとめ

地下室マンションは、法改正を背景に生まれた形態の集合住宅です。売却時には、既存不適格の可能性や修繕費の増大、災害リスクといった特性を理解しておく必要があります。

一方で、すべての物件が問題を抱えているわけではなく、斜面地を活かした眺望の良さや、プライバシー性、防音性の高さといった魅力も備えています。メリットとデメリットの両方を理解し、物件の価値を的確にアピールすることが、売却を進めるうえでのポイントです。

地下室マンションの売却には専門的な知識が求められるため、まずは信頼できる不動産会社に相談してみましょう。

東急リバブルでは、豊富な経験と知識をもとにした売却プランをご提案します。地下室マンションの売却でお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。

この記事のポイント

地下室(傾斜地)マンションとはどんなマンションですか?

地下室(傾斜地)マンションとは、高低差のある斜面地などを利用して建てられた、地階部分に住戸を持つマンションのことです。

詳しくは「地下室(傾斜地)マンションとは?」をご覧ください。

地下室マンションの問題点は?

地下室マンションは、その特殊な構造や立地から、一般的なマンションとは異なる問題点が存在する場合があります。

詳しくは「地下室マンションの問題点」をご覧ください。

地下室マンションを売却したいのですが注意点はありますか?

地下室マンションには特有の問題点が存在するものの、それを踏まえた売却戦略を立てれば、スムーズに取引を進めることも可能です。

「地下室マンションを売却する際の注意点」では、地下室マンションの売却をする際のポイントを3つ解説します。

ライターからのワンポイントアドバイス

地下室マンションを売却する際には、インスペクションを実施することも有効です。インスペクションとは、建築士などの専門家が建物の状態を診断することで、基礎や外壁のひび割れ、雨漏りの有無などを確認します。特に地下室マンションの購入検討者は、湿気や防水の状態、擁壁の安全性などを懸念することがあります。専門家による調査報告書があれば、物件の状態を客観的なデータとして示せるため、買主の安心につながるでしょう。
また、売主にとっても、事前に建物の状態を把握することで、契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)のリスクを低減できるというメリットがあります。

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