物価高に伴い、さまざまなモノの値段が上がっています。賃貸住宅の家賃も例外ではなく、都市部を中心に昨今、大幅な値上げを通知される入居者も少なくないようです。
2025年6月には、新たに中国国籍の方がオーナーになった板橋区のマンションで、突如、従来の2.5倍の賃料に値上げすると通知された問題がメディアやSNSを騒がせました。
この記事では、家賃が上昇している理由や値上げ通知への対処法について解説します。
記事サマリー
「日本の家賃は上がらない」 神話の崩壊

不動産価格は、ここ十数年にわたって上昇し続けています。とくにマンションの価格上昇率は高く、2025年2月の価格指数は2015年比で2倍を超えています。

賃貸住宅の家賃も上昇傾向にあるとはいえ、2018年から5年間の民営借家1畳あたりの賃料上昇率は10%強。下落傾向にあった家賃相場が戻った程度の上昇です。
不動産価格が著しく高騰する中、家賃がなかなか上がらなかった要因は、主に日本の法律や慣習にあります。
日本の賃貸住宅の家賃が上がりづらい理由
日本の借地借家法では、賃貸住宅を所有して貸し出すオーナーより、賃借人である入居者の権利のほうが強く保護されています。
たとえば、賃料の折り合いがつかず、家主が入居者に対して退去を迫ったとしても、必ず出て行ってもらえるとは限りません。折り合いがつかない状態であっても、入居者が望めば賃貸借契約は現状のまま更新されるのが一般的です。
日本と比べて家主の権利が強く、インフレが進む欧米諸国などでは、賃貸住宅の賃料の高騰が顕著に見られます。

また、日本の賃貸住宅の家賃が上がりづらいもう一つの理由として「需給バランス」も挙げられます。
直近2023年の調査で日本の空き家数は900万戸を超えていますが、そのうち賃貸住宅は半数近くの443万戸を占めています。人口減少や少子高齢化は顕著に進んでおり、住宅ローン金利の低さなどからここ十数年にわたって持ち家の需要が高まっていたこともあって、賃貸住宅の家賃水準は不動産価格や地価ほどの上昇が見られなかったのです。
なぜ家賃は上がり始めたのか
借地借家法は、家賃の値上げを認めていないわけではありません。第32条では、値上げには次のような「正当な理由」が必要とされています。
- 資産価値の上昇
- 税額の上昇
- 周辺物件との不均衡
これまでも不動産価格や地価の上昇は見られていましたが、それがより顕著になったのはコロナ禍以降のことです。先のとおり、日本では賃貸住宅の家賃は上げづらく、値上げされるとすれば更新時や契約時が一般的です。普通賃貸借契約の多くは2年ごとの更新となるため、不動産価格などの上昇が家賃の上昇に結びつくまで、一定のタイムラグがあったものと推測されます。
さらに、2024年に日本銀行が17年ぶりにマイナス金利政策を解除して以降、住宅ローン金利が上昇し始めており、これもまた賃貸需要を高める要因の一つになっています。
東京23区のシングル向け賃貸住宅の家賃は過去最高に

賃貸住宅の家賃の著しい高騰は全国的に見られているわけではなく、都市部が中心です。とくに大都市部の賃料上昇は著しく、東京都23区のシングル向きの賃貸住宅の賃料は2025年5月まで12ヶ月連続で上昇し、10万円を突破。過去最高に達しています。(アットホーム調べ)
賃料の値上げは拒否・交渉ができるのか
先のとおり、借家借地法は賃貸住宅の家賃の値上げを認めているものの、正当な理由が求められます。ただし、正当な理由があったとしても、家賃の値上げには双方の合意が必要なことがほとんどです。国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」には、家賃の値上げについて以下のように明記されています。
賃料
第4条2 甲及び乙は、次の各号の一に該当する場合には、協議の上、賃料を改定することができる。
一 土地又は建物に対する租税その他の負担の増減により賃料が不相当となった場合
二 土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動により賃料が不相当となっ た場合
三 近傍同種の建物の賃料に比較して賃料が不相当となった場合
賃貸借契約にこのように記載されている場合は「協議の上」となっていることから、家主が一方的に値上げすることができず、入居者は値上げに対して拒否することも可能です。
また、選択肢は、値上げに「応じる/応じない」だけではありません。たとえば、2万円の値上げ通知のうち「1万円にとどめてほしい」といった交渉をすることもできます。そのほか、値上げ自体は受け入れながらも次回の更新料を免除してもらったり、値上げ時期を遅らせてもらったりする交渉も可能です。
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賃料の値上げ通知に対して交渉する際のポイント

賃料の値上げは多くの場合、やむを得ず家主から入居者にお願いされることがほとんどです。「値上げなんて当然に応じない」という姿勢ではなく、相手の状況も理解したうえで交渉に臨みましょう。
理由を確認する
先のとおり、賃料の値上げには正当な理由が必要です。値上げを通知されたら、まずは値上げの理由を確認します。必要であれば、理由の根拠となるデータも見せてもらいましょう。
賃料や価格の相場を調べる
自身でも、値上げの理由が正当なものか、賃料や価格の相場を調べて確認してみましょう。相場は不動産ポータルサイトで近隣の物件を見れば確認できますが、地価や価格の推移を確認したい場合は国土交通省の「不動産情報ライブラリ」が便利です。地図や住所から場所を絞り込めば、現在の地価や成約価格だけでなく、それらの推移が確認できます。
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家主の状況や心情も考慮する
近年はただでさえあらゆるモノの値段があがっていることから、家賃の値上げは誰にとってもできる限り避けたいところです。しかし、家主も、管理コストなどの上昇で厳しい立場にあることも少なくありません。
入居者は借地借地法によって守られる立場にあるとはいえ、トラブルなく、円満に家を借り続けたいものです。やみくもに値上げを突っぱねるのではなく、家主の状況や心情も考慮したうえで、理性的に交渉に臨みましょう。
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交渉が決裂してしまったらどうすればいい?
従前の賃料を支払い続けていれば、基本的に退去させられることもありません。避けなければならないのは、値上げ交渉に憤り、賃料の支払いを停止してしまうことです。家賃を3ヶ月程度滞納してしまうと、裁判所に強制退去が認められやすくなります。
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もし「新規賃料しか受け付けない」と家主に強い態度を取られてしまったら「供託制度」を利用しましょう。供託とは、支払うべきお金を法務局に預ける制度で、支払意思がある一方で、相手が受け取らない場合などにトラブルを回避する手段として使われます。従前の賃料を供託することで、入居者が「支払義務を履行している」と法的に証明でき、滞納扱いになるのを防ぐことができます。
ただし、家主の訴訟によって家賃の値上げが相当と認められた場合は、供託した金額との差額を家主に支払う必要があります。供託してもトラブル自体が解消されるわけではないため注意が必要です。
まとめ
賃料の一定程度の値上げは、市況や経済的観点から「正当な理由」と判断される場合もあります。とくに近年は、不動産価格の高騰や物価上昇、管理コストの増加といった背景もあり、家主側が賃料の見直しを求めるケースが増えているのが現状です。
ただ一方で、賃料改定には基本的に入居者の合意が必要であり、入居者には交渉や拒否をする権利があります。値上げの根拠や相場感を冷静に確認し、必要に応じて話し合いの場を持つことが大切です。

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