ざっくり要約!
- 配偶者居住権とは、被相続人(死亡した人)の配偶者が家の所有権を持たずに家の全部について無償で使用および収益ができる権利
- 配偶者居住権は、配偶者と建物所有者の合意によって消滅できる
相続で配偶者居住権を所得した配偶者は、老人ホームへの入所一時金等を確保するために自宅を売却したいと考えることもあります。
配偶者居住権が設定されている不動産は実質的に売却ができないため、売るためには配偶者居住権を消滅させることが必要です。
配偶者居住権付きの物件を売却するには、建物所有者が配偶者に対価を支払い、配偶者所有権の合意消滅をした後に売ることが基本となります。
配偶者居住権の物件を譲渡するには、どのようにしたら良いのでしょうか。
この記事では、「配偶者居住権の譲渡」について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
記事サマリー
配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、配偶者が相続開始のときに居住していた被相続人(死亡した人)の所有建物を終身または一定期間、配偶者に無償で使用および収益を認める制度のことです。
配偶者居住権は、2020年の民法改正によって創設された比較的新しい制度になります。
ここでは、配偶者居住権についてわかりやすく説明していきます。
配偶者居住権の概要
配偶者居住権とは、被相続人(死亡した人)の配偶者が家の所有権を持たずに家の全部について無償で使用および収益ができる権利のことです。
配偶者居住権の目的は、残された配偶者の居住権を保護することになります。
配偶者居住権の期間は、原則として配偶者が死亡するまでの間ですが、遺言等で特別の定めをした場合には有期の期間も設定することが可能です。
| ・「遺産相続の手続きの流れ」に関する記事はこちら 遺産相続の手続きの流れは?相続人や相続割合、税金についても解説 |
配偶者居住権はどんなときに利用する?
配偶者居住権は相続人間で遺産をなるべく公平に分割し、かつ、配偶者に現金を多めに残したいときに利用します。
例えば、相続人が配偶者と子の2人のケースを考えます。
相続人が配偶者と子の2人の場合、法定相続割合は50%ずつです。
ここで、被相続人が残した遺産が現金5,000万円、自宅5,000万円だったとします。
子は独立して自分でマイホームを持っており、自宅は不要の状態です。
一方で、配偶者は自宅に住み続けることを希望しています。
配偶者居住権が創設される以前は、配偶者が自宅に住み続けるために自宅の所有権を配偶者に移転することが必要でした。
配偶者が自宅の所有権を引き継ぐとなると、法定相続割合で遺産を分割するには配偶者が5,000万円の自宅を承継し、子が5,000万円の現金を承継することになります。
何も問題ないように見えますが、配偶者は自宅だけもらっても、現金をもらえなければ今後の生活に困ってしまいます。
そのため、今後の生活を考えれば、子が5,000万円の自宅を承継し、配偶者が5,000万円の現金を承継した方が、配偶者の今後の生活にとっては望ましいです。
しかしながら、子が5,000万円の自宅を承継すると配偶者は自宅の所有者ではないため、配偶者の居住する権利が不安定になってしまいます。
場合によっては子が家を勝手に売却し、第三者が所有者になって配偶者を退去させることも考えられます。
そこで考えられたのが、所有者ではなくとも無償で住み続けられるという配偶者居住権です。
登記によって配偶者居住権の権利を第三者に対抗(主張)できるようにすれば、実質的に売却も防ぐことができます。
| ・「対抗要件」に関する記事はこちら 対抗要件とは?不動産における意味や民法での役割をわかりやすく解説 |
配偶者居住権の成立要件
配偶者居住権を設定するには、以下の全ての要件を満たすことが必要です。
- 配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始のときに居住していたこと
- 遺産分割や遺贈等によって取得したものであること
- 被相続人が相続開始のときにおいて居住建物を配偶者以外のものと共有していないこと
配偶者居住権と登記の関係
配偶者居住権は、成立要件を満たしていれば成立します。
しかしながら、第三者に対しては登記をしないと対抗することができません。
対抗とは、配偶者が配偶者居住権の権利を有していることを第三者に対して主張することです。
配偶者所有権を設定した際は、建物所有者が配偶者居住権の登記を備えさせる義務を負っています。
例えば息子が建物所有者となり、妻(母)が配偶者居住権を有するとしたら、息子が妻(母)に配偶者居住権の登記を備えさせる義務を負っているということです。
| ・「所有権保存登記」に関する記事はこちら 所有権保存登記とは?必要な理由や記録内容、申請手続きの流れを解説 |
配偶者居住権は譲渡・売却できない

配偶者所有権付きの物件は、実質的に売却できません。
この章では、配偶者居住権が譲渡・売却できない理由について解説します。
譲渡・売却ができない理由
まず、配偶者所有権を有する配偶者は、法律上、配偶者所有権自体を売却することはできません。
理由としては、配偶者居住権は、あくまでも配偶者の居住を保護する目的の権利であるため、その権利を売ること自体が目的を失わせる行為だからです。
つまり、配偶者であるAが無償で住めて得だからという理由で、第三者Bに配偶者居住権という権利自体を売ることはできません。
配偶者居住権自体の売却は、民法第1032条2項によって売却できないことが定められています。
配偶者居住権付きの住宅の売却は可能
次に、建物所有者が配偶者居住権付きの家そのものを売却できるかが問題となります。
具体的には、建物所有者である息子が母(妻)の住む配偶者居住権付きの家を売れるかということです。
この点に関しては、法律による制限はなく、建物所有者は配偶者居住権付きの物件を売ることは可能です。
しかしながら、登記を備えた配偶者居住権付きの建物は、実質的に売却できないと考えられています。
理由としては、配偶者居住権の登記が備わっていると、配偶者が買主(新所有者)に対しても配偶者居住権を主張できるからです。
つまり、第三者が家を買ったとしても配偶者が死亡するまで無償でそのまま住み続けることができ、第三者にとっては利用価値がありません。
通常は利用価値がない物件を買う人は想定しにくいことから、配偶者居住権付きの家は実質的に第三者に売却できないと考えられているのです。
配偶者居住権の譲渡はできないが放棄・消滅は可能

この章では、配偶者居住権の性質について解説します。
放棄するケース
配偶者居住権は、そもそも設定しないことが可能です。
遺産分割協議によって、配偶者居住権を設定しないことを決定すれば、配偶者居住権の設定されていない自宅とすることができます。
遺産分割協議とは、相続後に相続人同士で遺産分割の方法を決める話し合いのことです。
配偶者居住権自体が遺産分割等によって取得することが条件となっているため、遺産分割協議によって取得しないことを決めれば配偶者居住権は生じません。
| ・「相続放棄をすべき場合」に関する記事はこちら 相続放棄をすべき場合とは?全員が相続放棄する場合の注意点もあわせて解説 |
消滅するケース
配偶者居住権は、以下のようなケースで消滅します。
- 配偶者が死亡したとき
- 有期の配偶者居住権を設定した場合で期間が満了したとき
- 建物が全部滅失したとき
- 配偶者が法に違反し建物所有者が消滅を請求したとき
- 合意消滅したとき
配偶者居住権は、配偶者と建物所有者の合意によって消滅できる点がポイントです。
合意による消滅のことを合意消滅と呼びます。
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配偶者居住権付きの物件を譲渡する方法

この章では、配偶者居住権付きの物件を譲渡する方法について解説します。
合意消滅によって権利を消滅させる
配偶者居住権の登記が備わっている物件は、買主にとって利用価値がないことから、実質的には売却することはできません。
そのため、配偶者居住権の物件を売却するには、配偶者居住権を消滅させ、配偶者居住権の登記を抹消することが必要です。
前章でも紹介したように、配偶者居住権は配偶者と建物所有者の合意によって合意消滅させることができました。
配偶者居住権を合意消滅させるには、建物所有者が配偶者に対して対価を支払って消滅させることが必要です。
配偶者居住権自体は第三者に売ることはできませんが、無償で住むことができる以上、理論上は一定の財産価値があると考えられます。
配偶者居住権を消滅させるには、建物所有者が理論上の配偶者居住権の財産価値のうち、残存分を支払えば消滅させることができるということです。
ただし、当事者同士で消滅したとしても、売却するには配偶者居住権の登記まで抹消することが必要となります。
配偶者居住権の登記を抹消するには、配偶者と建物所有者の共同申請が必要です。
ただし、配偶者が重度の認知症になっている等で意思能力がない場合は抹消登記を行うことができません。
配偶者が意思能力を失った場合には、抹消登記の申請を行うために成年後見制度の利用が必要となることもあります。
そのため、抹消登記をスムーズに行うためには、配偶者が意思能力のあるうちに配偶者居住権の合意消滅を行うことが適切です。
| ・「認知症の相続人」に関する記事はこちら 認知症の相続人がいると遺産分割ができない?必要な手続きや対処法を解説 |
税金の発生に注意する
配偶者居住権を合意消滅させる際、建物所有者が配偶者に対して対価を支払います。
この際、対価を支払わずに無償で消滅させる、もしくは著しく低い対価で消滅させた場合、建物所有者は残存期間の配偶者居住権に相当する対価の贈与を受けたものとみなされます。
そのため、建物所有者には贈与税が課せられてしまう点が注意点です。
一方で、配偶者に対価を支払った場合には、配偶者に所得税が発生します。
いずれにしても税金はどちらかに発生するため、税理士と相談しながら配偶者居住権の対価を決めることが望ましいといえます。
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まとめ
以上、配偶者居住権の譲渡について解説してきました。
配偶者居住権とは、一定の条件を満たす自宅を配偶者が無償で使用または収益できる権利のことです。
配偶者居住権を活用することで、遺産分割で配偶者に現金を多めに渡すことができる等のメリットがあります。
配偶者居住権付きの物件は、そのままでは実質的に売却することはできません。
配偶者居住権付きの物件を売却するには、配偶者居住権を合意消滅させてから売ることが基本となります。
配偶者居住権の譲渡を検討している方は、参考にして頂けると幸いです。
この記事のポイント
- 配偶者居住権とは?
配偶者居住権とは、被相続人(死亡した人)の配偶者が家の所有権を持たずに家の全部について無償で使用および収益ができる権利のことです。
配偶者居住権の目的は、残された配偶者の居住権を保護することになります。
相続人間で遺産をなるべく公平に分割し、かつ、配偶者に現金を多めに残したいときに利用します。
詳しくは「配偶者居住権とは」をご覧ください。
- 配偶者居住権は放棄できる?
遺産分割協議によって、配偶者居住権を設定しないことを決定すれば、配偶者居住権の設定されていない自宅とすることができます。
詳しくは「配偶者居住権の譲渡はできないが放棄・消滅は可能」をご覧ください。
ライターからのワンポイントアドバイス
配偶者居住権は2020年に発足した歴史の浅い制度であり、売買市場にほとんど現れていない物件です。そのため、配偶者居住権付きの物件の売買を経験した不動産会社も少なく、不動産会社に相談しても断られることが多いと思われます。配偶者居住権付きの物件を売るには、まずは当事者が配偶者居住権を消滅させ、その後に不動産会社に相談をした方がスムーズです。合意消滅の際は所得税や贈与税の発生の可能性もあるため、税理士とも相談しながら消滅させる方法を検討して頂ければと思います。

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