ざっくり要約!
- 敷引きとは、主に九州や関西の賃貸物件を借りる際に発生する一時金のこと
- 敷引き特約の敷金は、最初から敷金の一部が返還されないことを合意して支払っている一時金
賃貸物件を借りるときは、基本的に初期費用として「敷金」や「礼金」が発生します。
また西日本の一部では、「敷引き」という敷金の一部が返還されない形式の一時金が生じる地域もあります。
賃貸契約の開始時に入口で徴収されるのが礼金であるのに対し、出口で契約終了時に徴収されるのが敷引きになります。
関東などから関西に引っ越した人の中には、敷引きという聞きなれない用語に対して戸惑っている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、「敷引き」の概要や敷金・礼金との違い、そして法的有効性について詳しく解説します。賃貸物件探しや契約で不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
記事サマリー
敷引きの概要

敷引きとは、主に九州や関西の賃貸物件を借りる際に発生する一時金のことです。
関東地方では敷金と礼金という2つの一時金が徴収されますが、九州や関西では敷引き特約付きで敷金または保証金という1つの一時金が徴収されます。
敷金または礼金の形式で徴収するか、敷引き特約の敷金を徴収するかについては、地域に存在する慣行で決まっています。
敷引きとは
敷引きとは、敷金のうち、一部を返還しないとする特約のことです。
敷引きは「敷金の償却」と呼ばれることもあります。
敷金とは、賃貸借契約において借主が負う金銭債務を担保するために、借主が貸主に預ける金銭のことです。
基本的に敷金は貸主が借主から預かっている一時金であり、原則として借主の債務不履行(約束を破ること)がなければ退去時に返還されます。
敷金は原則として全額戻って来る金銭ですが、敷引き特約の敷金は、最初から敷金の一部が返還されないことを合意して支払っている一時金となります。
例えば、「敷金3カ月、敷引き1カ月」という表示であれば、2カ月分は純粋な敷金として原則戻ってきますが、残りの1カ月分は戻ってこないということです。
よってつまり「敷金3カ月、敷引き1カ月」というのは、実質的には「敷金2カ月、礼金1カ月」と実質的に同じです。
敷金は借主の債務不履行を担保する一時金であるため、借主が家賃の不払い等の債務不履行を行えば、敷金の中から差し引かれます。
例えば、「敷金3カ月、敷引き1カ月」であれば、純然たる敷金の部分は2カ月分です。
契約期間中に家賃を1カ月分滞納していれば、純然たる敷金2カ月分の内から滞納分の1カ月分が差し引かれます。
敷引きと併せて使われることが多い保証金とは
保証金も、基本的に敷金と同じ性質を有する一時金のことです。
借主が負う金銭債務を担保するために、借主が貸主に預けている金銭であり、原則として退去時に戻って来る一時金となります。
関東のような敷引きの慣行がない地域では、保証金は法人が店舗やオフィスビルを借りる場合や定期借地権の設定をするときに借主に預ける金銭として使われることが多いです。
定期借地権とは、更新されることなく、期間満了で終了する借地権(土地を借りる権利)を指します。
敷金も保証金も、機能や意味は同じですが、関東等の敷引きの慣行がない地域では住宅の預り金を「敷金」と称することが多いです。
一方で、関西等の敷引きの慣行がある地域では、住宅の預かり金を「保証金」と称することもあります。
敷金を保証金と呼ぶ地域では、「保証金5カ月、敷引き2カ月」といった表現がなされることが多いです。
「保証金5カ月、敷引き2カ月」という表現の場合、純然たる敷金が3カ月分、礼金が2カ月分となります。
敷引きを採用しているケースは減っている
近年は、敷引きを採用しているケースは減少傾向にあります。
敷引きと同じ機能の一時金である礼金も、全体的に減ってきています。
礼金は家賃の前払い的性格を有する一時金ですが、近年の賃貸市場は人口減少を背景に借り手が有利になっていることから礼金を徴収する地域は減ってきました。未だに礼金が取れるのは、都会の一等地や都市部の新築物件といった優良物件だけです。
敷引きも礼金と同じく一時金なので、上記の理由で減っています。
また、現在では敷引きの慣行が残っている地域は少ないため、敷引きを知らない人が契約時や退去時に揉めることが多いことも、減少要因のひとつと考えられています。
敷引きと敷金・礼金の違い

関東地方等では、敷引きという言葉はあまり使われることがなく、敷金や礼金という用語を使うことが一般的です。
この章では、敷引きと敷金・礼金の違いについて解説します。
敷引きと敷金の違い
敷引き特約を含む敷金とは、敷金の一部が最初から返還されないことが約定されている敷金のことです。
それに対して、単なる敷金は、債務不履行等がなければ原則として全額が返金される一時金となります。
また、敷引き特約を含む敷金は、関東でいう敷金と礼金を合算した金額となるため、単なる敷金と比べると金額が大きい傾向がある点も特徴です。
敷引きと礼金の違い
礼金と敷引き額は、家賃の一部を構成するものであり、ともに貸主の収入となる点で同じです。
礼金は賃貸契約の入口段階で敷金と分けて受領する一時金であるのに対し、敷引き額は出口段階で敷金の一部を不返還とする形で受領する一時金となります。
どちらも貸主の収入となりますが、最初に取るか、最後に取るかという点が違いです。
| ・「敷金礼金」に関する記事はこちら 敷金礼金とは?賃貸物件の入居時にかかる初期費用や退去時の費用もあわせて解説! |
敷引き物件を避けるコツ

お部屋探しをしている場合、できれば敷引き物件を避けたいと考える人もいると思います。
この章では、敷引き物件を避けるコツについて解説します。
契約時にしっかり確認する
敷引き物件を避けたい場合は、契約時に敷引き物件でないことをしっかりと確認することが鉄則です。
まず、チラシやインターネット広告を見る段階で、よく確認します。
相場よりも敷金の額が大きい場合、敷引き物件の可能性があります。
チラシ等で敷引き物件であることがよくわからない場合には、念のため、不動産会社に確認することも必要です。
ただし敷引き物件であっても、物件として魅力的だと感じる可能性もあるため、こだわらずに借りることもひとつの判断といえます。
ゼロゼロ物件を選ぶ
ゼロゼロ物件とは、敷金や礼金、敷引き、保証金等が一切かからない物件のことです。
敷引きを明確に避けたい場合には、ゼロゼロ物件を選ぶという方法も考えられます。
ただしゼロゼロ物件は、退去時に高額な修繕費用が別途請求される契約となっている物件も多いです。
ゼロゼロ物件を借りる際は、早めに担当者に退去時に要する費用を確認することをおすすめします。
敷引きの法的有効性|入居者が負担すべき原状回復費用とは

敷引き制度に関連して、退去時の原状回復に関して揉めることもよくあります。
この章では、敷引きの法的有効性や入居者が負担すべき原状回復費用について解説します。
入居者が負担義務を負う修繕費用の範囲
原状回復とは、借主の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧することです。
賃貸物件の原状回復については、国土交通省が示す「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が判断の基準となっています。
経年劣化や通常損耗の部分については、原則として原状回復の対象外です。
経年劣化とは、建物や設備等の自然的な劣化または損耗のことであり、一例として日照等による畳やクロスの変色が挙げられます。
通常損耗とは、借主の通常の使用により生じる損耗等のことであり、家具の設置によるカーペットのへこみ等が該当します。
経年劣化や通常損耗に対する修繕費は、原則として貸主が負担すべき部分であり、特約がない限り借主は費用負担をする必要はありません。
一方で、故意や過失、善管注意義務違反、通常の使用を超える使い方により損傷を発生させた場合には、借主が修繕費を負担するため、敷金から差し引かれることになります。
| ・「原状回復」に関する記事はこちら 原状回復とは?現状回復・原状復帰との違いや賃貸アパート・マンションの回復にかかる費用などを詳しく解説! |
敷引きの有効性
敷引きは、原則として有効です。
賃貸借契約書に敷引き特約が付され、貸主が取得する敷引き額について契約書に明示されており、かつ過剰に高すぎないと判断されるといえない場合には有効とされています。
敷引き特約は有効だが修繕費用は減額された例
敷引き特約自体は有効であっても、敷引き額が通常損耗や経年劣化の部分に及んでいる場合は、減額される場合があります。
「神戸地方裁判所判決平14.6.14」の判例によると、敷引きの特約は有効とされたものの、修繕費用は通常の使用による自然損耗部分を除く7万円に減額された事例があります。
敷引き特約が無効とされた例
敷引き額が高過ぎると、消費者契約法により敷引き特約自体が無効となる場合もあります。
「西宮簡易裁判所判決平19.2.6」の判例によると、消費者契約法10条により敷引き特約が無効であるとされた事例があります。
敷引特約を認識していても特約合意が否定された例
借主が敷引特約を認識していても、原状回復の特約が否定される場合もあります。
「福岡簡易裁判所判決平22.1.29」によると、クロスの張り替え費用が借主負担となっており、その合意が否定されています。
どの程度の敷引額なら有効か
裁判所では、敷引き額は家賃の3.5倍程度以内であれば、消費者契約法に反せず、有効と判断することが多いようです。
敷引き額が3.5倍を大きく超える場合には、消費者契約法により敷引き特約が無効となる可能性があります。
まとめ
以上、敷引きについて解説しました。
敷引きとは、敷金のうち、一部を返還しないことを約定した形の特約のことです。
敷引き特約は、主に九州や関西で残っている商習慣となります。
敷引き特約の物件を契約するには、退去時に戻って来る部分と戻ってこない部分をしっかりと確認することが重要です。
敷引き特約付きの敷金や通常の敷金であっても、家賃の不払いや借主が負担すべき原状回復義務が発生すれば、本来返還される部分から差し引かれます。
敷引き方式の物件を借りる際は、ぜひこの記事を参考にしてください。
この記事のポイント
- 敷引きとは?
敷引きとは、敷金のうち、一部を返還しないとする特約のことで、敷金の償却と呼ばれることもあります。
敷金とは、賃貸借契約において借主が負う金銭債務を担保するために、借主が貸主に預ける金銭のことです。
基本的に敷金は貸主が借主から預かっている一時金であり、原則として借主の債務不履行(約束を破ること)がなければ退去時に返還されます。
敷金は原則として全額戻って来る金銭ですが、敷引き特約の敷金は、最初から敷金の一部が返還されないことを合意して支払っている一時金となります。
詳しくは「敷引きの概要」をご覧ください。
- 敷引きと敷金の違いは?
敷引き特約を含む敷金とは、敷金の一部が最初から返還されないことが約定されている敷金のことです。
それに対して、単なる敷金は、債務不履行等がなければ原則として全額が返金される一時金となります。
詳しくは「敷引きと敷金・礼金の違い」をご覧ください。
ライターからのワンポイントアドバイス
敷引き特約付きの敷金や単なる敷金がそれぞれ存在することには、地域の商習慣の違いが大きく影響しています。また、敷引き特約付き額や礼金の額については、地域の需要によって決まります。賃貸需要が強いエリアでは、貸主が強気に設定できるため、敷引き額や礼金の額が大きいです。
物件を決める際は、敷引き額や礼金だけに捉われず、家賃や間取り、広さ、周辺環境も含めて良否を見極めることが適切です。敷引きや礼金があるからといって、必ずしも損をするとは限らないため、他の条件も含めて物件を検討して頂ければと思います。

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