ざっくり要約!
- 物上保証人とは自身が所有する不動産などを担保として提供し、他者の債務を保証する人のこと
- 物上保証人が立てられるケースとして代表的なものは「親の土地に子どもが家を立てる」場合
住宅ローンなどの融資を検討する際に「保証人」という言葉を耳にする機会があるかもしれません。多くの方は「保証人」と聞くとまず「連帯保証人」を思い浮かべるでしょう。
しかし、保証人には「連帯保証人」だけでなく、「物上保証人」という制度も存在します。一見すると複雑に感じるかもしれませんが、これから家を建てる方や、親の財産を相続する可能性がある方にとっては知っておくべき重要な仕組みです。
本記事では、物上保証人の基本的な仕組みを解説し、連帯保証人や抵当権設定者との違いについて詳しく説明します。
記事サマリー
物上保証人とは

ここでは、物上保証人の役割や目的、対象範囲について詳しく解説します。
物上保証人(担保提供者)の役割
物上保証人とは、自身が所有する不動産などを担保として提供し、他者の債務を保証する人のことを指します。
一般的に「担保提供者」とも呼ばれ、債務者本人とは異なり、借金そのものを返済する義務は負いません。
しかし、債務者が返済不能となった場合、物上保証人が提供した担保の範囲内で弁済が求められます。
例えば、Aさんが4,000万円の融資を受ける際に、担保として提供できる不動産を持っていなかったとします。
その場合、Bさんが物上保証人となり、自身の所有する不動産を担保として提供することでAさんは融資を受けられます。
その後、もしAさんがローンを返済できなくなった場合、金融機関はBさんが提供した不動産を競売にかけ、融資の回収を図る仕組みです。
| ・「被担保債権(担保によって補われる債権)」に関する記事はこちら 被担保債権とは?不動産担保との関係について司法書士がわかりやすく解説 |
物上保証人が必要な理由
融資を受ける際、担保が不足していると審査に通らないことがあります。そんなときに必要になるのが物上保証人です。
金融機関は、融資の審査において担保の価値も慎重に判断します。
例えば、Aさんが3,000万円の融資を希望しても、所有する担保物件の評価額が2,000万円しかない場合、そのままでは審査に通らない可能性が高いでしょう。
そこで、AさんはBさんを物上保証人として設定し、Bさんの不動産を追加の担保として提供します。その結果、不足していた1,000万円分の担保が確保され、Aさんは融資を受けられるようになるのです。
金融機関にとっても、物上保証人が担保を提供することで担保価値が向上するため、貸し倒れリスクを軽減できるメリットがあります。
物上保証人の対象範囲
物上保証人は、自由に選べるわけではありません。
一般的に物上保証人として認められるのは両親、配偶者、子どもなどの身内に限られます。
また、子どもが物上保証人になる場合、未成年でないことが求められるのが一般的です。
たとえ収入があり、担保価値のある物件を保有していたとしても、未成年であれば金融機関の審査に通るのは難しいでしょう。
| 物上保証人として認められる範囲 | ・両親 ・祖父母 ・配偶者・パートナー ・子ども ・兄弟姉妹 ・不動産の共有名義人 |
なお、金融機関によって物上保証人の対象範囲が異なるため、条件などを事前に確認しておくことが重要です。
物上保証人と連帯保証人や抵当権設定者の違い

ここまで解説してきた物上保証人ですが、それに似た言葉として「連帯保証人」や「抵当権設定者」があります。これらは混同されやすいですが、それぞれ役割や責任の範囲が異なります。
以下で、それぞれの違いについて詳しくみていきましょう。
物上保証人と連帯保証人の違い
物上保証人の役割を理解するためには、まず連帯保証人について知る必要があります。
連帯保証人とは、債務者が返済できなくなった場合に、その債務を肩代わりする義務を負う人のことです。
連帯保証人は、債務者と同等の立場とみなされるため、万が一債務者が返済不能になった場合、全額を支払う責任を負います。
一方で、物上保証人は、提供した担保の範囲でのみ責任を負う点が連帯保証人との大きな違いです。
| 物上保証人 | 連帯保証人 | |
| 責任の範囲 | 担保の範囲内まで | 全額返済 |
例えば、債務者が3,000万円の融資を受けたものの、2,000万円を支払えなくなったとします。このとき、もし連帯保証人になっていた場合、残りの2,000万円を全額返済する義務があります。
一方で、物上保証人として1,000万円の価値がある不動産を担保にしていた場合、その不動産を手放す必要はありますが、それ以上の負担は求められません。
つまり、担保物件の価値によっては、物上保証人のほうが損害を抑えられる可能性があります。
物上保証人と抵当権設定者の違い
「抵当権設定者」とは、ローンを借りる際に不動産などの担保を提供する人のことです。
通常は債務者自身が担保を差し出しますが、債務者が担保を持っていない場合、代わりに第三者が担保を提供することがあります。このとき、その第三者は「物上保証人」となります。
例えば、AさんがBさんに対して債権を持っているとしましょう。そしてAさんが確実に債権を回収できるように、Bさんの所有する不動産を抵当権に設定しました。この場合、Aさんは「抵当権者」、Bさんは「抵当権設定者」となります。
しかし、Bさんが担保を持っていない場合、第三者であるCさんが自分の不動産を担保として提供した場合、Cさんは「物上保証人」となるのです。
物上保証人を設定するよくある事例

ここからは、物上保証人が立てられる代表的なケースを紹介します。主な事例は次の2つです。
- 親の土地に子どもが家を立てる
- 事業資金を借りる
それぞれ順にみていきましょう。
親の土地に子どもが家を立てる
親が所有する土地に、子どもが家を建てるケースはよくあります。
通常、戸建てを購入する際は、建物と土地の両方を取得することが一般的です。
親がすでに土地を所有している場合、その土地を活用することで、子どもは建物の建築費用のみを準備すればよく、経済的な負担を軽減できます。
ただ、建物だけを担保にしてローンを組もうとすると、金融機関は融資のリスクが高いと判断し、審査が厳しくなる可能性があります。
これは、土地が担保に含まれないことで、金融機関にとって担保価値が不足すると見なされるためです。
そこで、親が物上保証人となり、土地を担保として提供することで、担保価値が向上し、金融機関の審査に通りやすくなります。
事業資金を借りる
事業資金の借入においても、物上保証人を立てるケースは多くみられます。
例えば、自身が所有する不動産の価値が低く、単独では十分な融資を受けられない場合、親族が所有する不動産を担保として提供するケースがあります。
この場合、親族が物上保証人となることで、必要な資金を確保しやすくなるのです。
一方、物上保証人ではなく、連帯保証人になってもらうという選択肢も考えられますが、連帯保証人は債務者と同等の責任を負うため、親といえども簡単に引き受けられるものではありません。
その点、親が所有する不動産の中で、自宅とは別に利用していない土地を担保として提供すれば、親のリスクを最小限に抑えられます。
物上保証に関する注意点

物上保証人を検討している場合、事前にリスクや注意点を理解しておくことが重要です。ここでは、物上保証を引き受ける際に気をつけるべきポイントについて解説します。
物上保証人の親が亡くなると子が引き継ぐ
物上保証人だった親が亡くなると、担保として提供していた財産は子どもが相続することになります。しかし、抵当権が設定された財産を引き継ぐことで、思わぬリスクを抱えることになるかもしれません。
ここでは、親が物上保証人だった財産を相続する際に、注意すべき2つのポイントについて解説します。
債務者が返済できないと財産を手放すことになる
物上保証人だった親の財産を相続した場合、債務者が問題なく返済を続けている間はとくに影響はありません。 しかし、債務者が返済できなくなった場合、相続した担保財産を売却して債務を返済する必要があります。
例えば、親が家や土地を担保にして誰かの物上保証人になったまま亡くなり、子どもがその「担保財産」を相続するケースがこれにあたります。
このようなリスクを避けたい場合に、相続放棄を選択することも1つの方法です。
ただし、相続放棄をすると担保財産だけでなく、親が保有していたその他の財産もすべて相続できなくなるため、慎重に判断する必要があるでしょう。
抵当権が設定され返済完了まで売却できない
担保として提供された土地や建物を相続した場合、無断に建物を取り壊すことはできません。
どうしても建物を解体したい場合は、抵当権者(金融機関など)の承諾を得る必要があります。
もし、承諾を得ずに勝手に解体してしまうと、抵当権者の権利を侵害することになり、民事訴訟に発展する可能性もあります。そのため、解体を希望する場合は、抵当権者にきちんと確認を取るようにしてください。
また、抵当権が設定されたままの不動産は、「買い手がつきにくい」という課題もあります。そのため、相場よりも大幅に低い価格でしか売却できないケースも少なくありません。
・「抵当権」に関する記事はこちら
抵当権をわかりやすく解説!設定・抹消手続きの流れと不動産の売却方法
物上保証の責任と義務について正確に確かめておく
物上保証人を頼まれた際は、受ける前にその責任と義務の範囲を正確に把握することが重要です。
繰り返しになりますが、借り手がローンを返済できなくなった場合、担保として提供した財産を失うことになります。そのため、物上保証人をお願いされたとしても安易に引き受けるのではなく、責任と義務の範囲をしっかり確認し、慎重に判断することが大事です。
必要であれば、弁護士や司法書士といった法律の専門家に相談し、リスクを十分に理解したうえで決断してください。
この記事のポイント
- 物上保証人と連帯保証人の違いは?
連帯保証人は、債務者と同等の立場とみなされるため、万が一債務者が返済不能になった場合、全額を支払う責任を負います。
一方で、物上保証人は、提供した担保の範囲でのみ責任を負うという違いがあります。
詳しくは「物上保証人と連帯保証人や抵当権設定者の違い」をご覧ください。
- 物上保証人はどんなときに設定する?
物上保証人が立てられる代表的なケースは次の2つです。
- 親の土地に子どもが家を立てる
- 事業資金を借りる
詳しくは「物上保証人を設定するよくある事例」をご覧ください。

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ライターからのワンポイントアドバイス
物上保証人とは、自身が所有する不動産などを担保として提供し、他者の債務を保証する人のことです。物上保証人を設定することで担保が増え、融資を受けやすくなります。ただし、債務者が返済不能となった場合、物上保証人が提供した担保が差し押さえられ、最終的に担保物件を失うことになります。そのため、物上保証人を引き受ける際や、すでに物上保証人になっている不動産を相続する場合は、十分な注意が必要です。
とくに、物上保証人の不動産を相続することになった場合は、相続間トラブルにも発展する可能性もあるため、弁護士や不動産会社などの専門家に相談することをおすすめします。状況に応じて相続放棄や売却、不動産の有効活用など最適なアドバイスをもらえるでしょう。

