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海外在住の非居住者が不動産を売却するときの必要書類は? 確定申告までの流れを解説

執筆者プロフィール

悠木まちゃ
宅地建物取引士

ライター・編集者。ハウスメーカー勤務時に、新築戸建て住宅のほか、事務所建築や賃貸アパートの営業・設計を経験。
その後、2019年よりフリーライター・編集者として活動を開始。実務経験を活かし、不動産・金融系を中心に執筆から編集まで行う。ブックライターとしても活動するほか、ライター向けオンラインサロンの講師も担当している。

ざっくり要約!

  • 海外に住んでいる非居住者が日本の不動産を売却する際は、手続きを代行する代理人を立てます。
  • 通常の必要書類に加え、住民票や印鑑証明書の代わりとなる「在留証明書」や「サイン証明書」を海外の在外公館で取得するのが一般的です。
  • 売却代金は原則として10.21%が源泉徴収されますが、個人の買主が居住用として1億円以下で購入する場合など、一定の要件を満たせば不要となります。

海外在住の方(非居住者)が日本にある不動産を売却する場合、国内在住の方とは異なる書類や手続きが求められます。どのような書類や手続きが必要か分からず、不安を感じる方もいるでしょう。

この記事では、非居住者が不動産を売却する際の必要書類や手続きの流れ、確定申告について詳しく解説します。海外からでもスムーズに売却手続きを進められるよう、ぜひ参考にしてください。

非居住者も日本の不動産を売却することは可能!

海外在住の方(非居住者)であっても、日本国内の不動産を売却することは可能です。ただし、日本在住の場合とは異なる手続きが必要です。ここでは、非居住者の不動産売却に関する基本的なポイントを押さえておきましょう。

  • 非居住者とは
  • 売却には代理人が必要
  • 一定の条件に該当する場合は源泉徴収を要する

非居住者とは

非居住者とは、日本の所得税法において「居住者以外の個人」を指します。居住者とは、日本国内に住所を持っているか、または1年以上日本に住んでいる個人です。

住民票を日本から移しているかどうかだけでなく、生活の本拠がどこにあるかという客観的な事実に基づいて判断されます。そのため、海外での滞在が1年未満の短期出張などの場合は、日本の居住者と見なされるのが一般的です。

非居住者の場合、不動産売却で得た利益などの日本国内で発生した所得(国内源泉所得)について、日本の所得税が課税されます。

売却には代理人が必要

非居住者の不動産売却では、代理人を立てるのが一般的です。海外に住んでいると、売買契約や物件の引き渡しといった手続きのために、その都度日本へ帰国するのは難しいでしょう。

また、非居住者は日本に住民票がないため、所有権移転登記に必要な印鑑証明書を取得できません。そのため、司法書士などの専門家を代理人とし、手続きを代行してもらうのが通例です。

代理人がいれば、日本と海外との間で書類のやり取りをするだけで、売却手続きを円滑に進めることが可能です。

一定の条件に該当する場合は源泉徴収を要する

売主が非居住者の場合、買主は売却代金を支払うときに、代金の10.21%を源泉徴収して国に納める義務があります。これは非居住者の申告漏れを防ぐための制度です。

ただし、以下の3つの条件をすべて満たす場合は、源泉徴収が不要です。

  • 買主が個人である
  • 買主が自己またはその親族の居住のために購入する
  • 売却代金が1億円以下である

例えば、買主が個人であっても、投資目的で購入する場合や、売却代金が1億円を超える場合は源泉徴収の対象となります。源泉徴収された税金は、確定申告をすることで精算されます。

非居住者が不動産を売るときに必要な書類

非居住者の不動産売却では、通常の売却で求められる書類のほかに、海外での取得が必要な追加書類があります。主なものは、以下の3点です。

  • 在留証明書
  • サイン証明書
  • 代理権限委任状

在留証明書

在留証明書は、海外のどこに住所を持っているかを証明する書類です。不動産の所有権移転登記の手続きでは、登記上の住所と現住所が一致している必要があります。通常、住所が一致しない場合は、住所変更登記を併せて申請します。

しかし、非居住者は住民票が取得できないため、その代わりとして、現地の日本大使館や領事館などの在外公館で在留証明書を発行してもらいます。申請には、有効な日本国パスポートや、現住所が確認できる公的書類などが必要です。

サイン証明書

サイン証明書は、日本における印鑑証明書の代わりとなる書類です。不動産売却の手続きでは、売買契約書や登記関連の書類に実印を押し、印鑑証明書を添付する必要があります。

非居住者は印鑑登録ができないため、実印の代わりに本人が署名し、その署名が本人のものであることを在外公館に証明してもらいます。これがサイン証明書です。

サイン証明書には、署名すべき書類を在外公館に持参して係官の目の前で署名する方法と、署名だけを単独で証明してもらう方法の2種類が存在します。どちらの方式で取得するかは提出先の指示に従う必要があります。

代理権限委任状

代理権限委任状は、不動産売却に関する手続きを代理人に委任したことを証明する書類です。司法書士などの専門家に手続きを依頼する場合に必要となります。

委任状には、代理人の氏名や住所のほか、どのような権限を委任するかを具体的に記載しなければなりません。

例えば「不動産売買に関する一切の権限」といった曖昧な書き方ではなく、「売買契約の締結」「残代金の受領」「所有権移転登記の申請」など、委任する内容を明確にすることが後のトラブルを防ぐうえで重要です。

非居住者が不動産を売却する流れ

非居住者 不動産 売却 流れ

非居住者の不動産売却は、日本にいる代理人と連携しながら進めるのが、通常の売却と異なる点です。具体的な流れを見ていきましょう。

  1. 不動産会社の選定
  2. 代理人の選定
  3. 売却活動
  4. 売買契約
  5. 決済・引き渡し

1.不動産会社の選定

はじめに、売却の仲介を依頼する不動産会社を選びます。海外からの不動産売却では、書類のやり取りや連絡が国際郵便やメールが中心となるため、非居住者の売却実績が豊富な会社を選ぶと安心です。

査定を依頼する際に、海外在住であることを伝え、手続きの流れや必要なサポートについて確認しておきましょう。時差を考慮して連絡をくれたり、オンラインでの相談に対応してくれたりする不動産会社であれば、スムーズにコミュニケーションが取れます。

2.代理人の選定

売却活動を始める前に、日本での手続きを代行してもらう代理人を選定します。一般的には、不動産会社から紹介された司法書士に依頼するケースが多いです。

代理人に委任する権限は、売買契約の締結や登記手続き、売却代金の受領など、委任状で明確に定めます。業務範囲のほか、費用についても事前に確認し、信頼できる人物や事務所を選ぶことが重要です。

3.売却活動

不動産会社と媒介契約を結んだら、売却活動が始まります。価格設定や販売戦略については、不動産会社の担当者とメールやオンライン会議で打ち合わせながら進めます。

購入希望者からの内覧希望があった際は、不動産会社が対応します。室内に家財が残っている場合は、その処分についても事前に不動産会社や代理人と相談しておく必要があります。売主が海外にいても、不動産会社から販売活動の状況について定期的に報告を受け、状況を把握しておくことが大切です。

4.売買契約

買主が見つかり、売却条件がまとまったら、売買契約を締結します。契約手続きは、代理人が買主と対面で行うのが一般的です。

売主は、事前に売買契約書の内容をデータなどで確認し、署名した書類を日本へ郵送します。この際、提出先の指示に合わせた方式のサイン証明書が必要になるため、契約のタイミングに合わせて在外公館で取得できるよう事前に準備しておきましょう。契約が成立すると、買主から手付金が支払われます。

5.決済・引き渡し

売買契約後は、買主の住宅ローン審査などを経て、残代金の決済と物件の引き渡しを行います。この手続きも代理人が立ち会い、所有権移転登記の申請も同日に行われるのが一般的です。

売却代金は、原則として売主本人名義の日本国内の銀行口座へ振り込まれます。ただし、日本の銀行口座がない場合、近年では非居住者が新たに口座を開設するのは難しい状況です。

対処法として、司法書士の預り金口座を利用して一時的に代金を管理するケースがありますが、対応の可否や手続きは事務所によって異なります。売却の初期段階で不動産会社を通じて確認しておくことが大切です。

非居住者が不動産の売却した場合に確定申告が必要なケース

不動産を売却して利益が出た場合や、源泉徴収された税金を精算する場合には、日本で確定申告を行わなければなりません。ここでは、確定申告が必要になる主なケースについて解説します。

  • 源泉徴収の精算を要するケース
  • 譲渡所得が出たケース
  • 納税管理人とは

源泉徴収の精算を要するケース

売却代金から源泉徴収された場合、その税額はあくまで概算です。不動産を売却して計算した本来の所得税額が、源泉徴収された金額よりも少なかった場合は、確定申告をすることで差額の還付を受けられます。

例えば、売却によって損失が出た場合、本来納めるべき所得税はゼロです。この場合、確定申告をすれば、源泉徴収された10.21%の税金が全額戻ってきます。還付申告の提出期限は、売却した年の翌年1月1日から5年間です。

譲渡所得が出たケース

不動産を売却して譲渡所得(売却益)が生じた場合は、確定申告をして所得税を納める必要があります。譲渡所得は、売却価格から、その不動産の取得にかかった費用や売却にかかった経費を差し引いて計算します。

源泉徴収されている場合は、確定申告によって計算した所得税額との差額を納付、または還付を受けることになります。

源泉徴収の対象外となる取引であっても、譲渡所得が出ていれば申告は必要です。申告を忘れると、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課されるため注意しましょう。

住民税は非課税

不動産を売却して譲渡所得が出た場合、通常は所得税に加えて住民税も課税されます。しかし、住民税は、その年の1月1日時点で日本に住所がない非居住者には課税されません。

そのため、不動産を売却した年の1月1日より前に海外へ転出していれば、住民税を納める必要はありません。例えば、2025年中に不動産を売却した場合、2025年1月1日時点で非居住者であれば、その譲渡所得に対する住民税はかからないことになります。

納税管理人とは

納税管理人とは、非居住者に代わって、確定申告の手続きや納税、税務署からの書類の受け取りなどを行う人のことです。非居住者が日本で確定申告をする場合は、この納税管理人を選任しなければなりません。

納税管理人は、親族や知人のほか、税理士などの専門家に依頼することも可能です。納税管理人を決めたら、「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を、売主の納税地を管轄する税務署に提出します。この手続きは、日本を出国する前、または納税管理人を定めた後、速やかに行う必要があります。

まとめ

海外に住む非居住者でも、代理人を立てることで日本の不動産を売却できます。売却手続きには、通常の書類に加えて、在外公館で取得する在留証明書やサイン証明書を準備します。書類の用意に時間がかかる場合もあるため、計画的に進めることが重要です。

また、売却によって利益が出た場合や、買主によって売却代金から源泉徴収された税金を精算する場合には、納税管理人を通じて日本で確定申告を行わなければなりません。

非居住者の不動産売却は手続きが複雑なため、実績の豊富な不動産会社に相談することがポイントです。東急リバブルでは、海外にお住まいのお客様の不動産売却もサポートしていますので、お気軽にご相談ください。

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この記事のポイント

非居住者でも日本の物件を売却することはできますか?

海外在住の方(非居住者)であっても、日本国内の不動産を売却することは可能です。ただし、日本在住の場合とは異なる手続きが必要です。

詳しくは「非居住者も日本の不動産を売却することは可能!」をご覧ください。

非居住者が不動産を売る時にどんな書類が必要ですか?

非居住者の不動産売却では、通常の売却で求められる書類のほかに、海外での取得が必要な追加書類があります。

詳しくは「非居住者が不動産を売るときに必要な書類」をご覧ください。

非居住者が不動産を売却する流れを教えてください。

非居住者の不動産売却は、日本にいる代理人と連携しながら進めるのが、通常の売却と異なる点です。

詳しくは「非居住者が不動産を売却する流れ」をご覧ください。

ライターからのワンポイントアドバイス

非居住者が不動産を売却して得た代金を、日本の銀行口座から海外の居住国へ送金する際には注意が必要です。多額の資金を海外に送金する場合、金融機関はマネーロンダリングなどを防ぐ目的で、その資金の出所を確認することがあります。その際、不動産の売買契約書や決済の明細書など、売却によって得た資金であることを証明する書類の提出を求められる場合があります。どのような書類が必要になるか、利用している金融機関に事前に確認しておくと、手続きがスムーズです。

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