取引事例比較法
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取引事例比較法とは?収益還元法とはどう違う?標準化補正についても解説

執筆者プロフィール

竹内 英二
不動産鑑定士

不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、住宅ローンアドバイザー、中小企業診断士の資格を保有。
https://grow-profit.net/

ざっくり要約!

  • 取引事例比較法とは、周辺の類似の取引事例を比較して不動産価格を求める手法
  • 取引事例比較法は、主に土地(更地)や区分マンションの査定に用いられる

不動産の価格を査定する方法のひとつに、取引事例比較法があります。
取引事例比較法とは、単純にいうと「近所の土地が坪50万円で売れたから、この土地も坪50万円程度だろう」といった査定方法です。
直感的で分かりやすく、多くの人が納得感を得やすい査定方法といえます。

一方で、取引事例比較法も万能ではありません、
価格を求めるのに、取引事例比較法が適さない場合も存在します。

この記事では、「取引事例比較法」について解説します。

取引事例比較法とは?3つの不動産評価方法を紹介

取引事例比較法とは,3つの不動産評価方法

不動産の評価方法には、価格の三面性に着目し、原則として取引事例比較法と原価法、収益還元法の3つがあります。

価格の三面性とは、価格は市場性と費用性、収益性の3つの側面から形成されるという考え方のことです。

この章では、原則的な3つの評価方法の概要について解説します。

取引事例比較法

取引事例比較法とは、市場性に着目した評価方法のことです。

その名の通り、周辺の類似の取引事例を比較して、価格を求めるという手法になります。

例えば、とあるマンションの一室を所有している人がいるとして、同じ間取りの隣の部屋が1カ月前に5,000万円で売れたとします。

同じ間取りのマンションが最近5,000万円で売れた場合、自分のマンションも5,000万円で売れると考えるのが通常です。

取引事例比較法とは、最近の近所の似た物件の事例から売却価格を推測するという、極めてシンプルな発想に基づいた評価方法となります。

取引事例比較法は、主に土地(更地)や区分マンションの査定に用いられます。

原価法

原価法とは、費用性(コスト)に着目した評価方法のことです。
今、同じ建物を建てたらいくらするかという発想を元に査定を行います。

建築費も相場が変動するため、最初に今の建築費で同じ建物を建てたときの金額を査定し、次に経過年数を考慮した減価修正を行って最終的な価格を求めます。

原価法が適用されるのは、主に建物の査定です。

例えば戸建ての査定では、土地は取引事例比較法、建物は原価法を適用することで査定価格を求めることになります。

収益還元法

収益還元法とは、収益性に着目した評価方法のことです。
貸したらいくら稼げるかという収益性を元に、査定を行います。

収益還元法は、アパートやオフィスビル、貸し店舗、投資用マンション等の収益物件の価格を求める際に利用される評価方法です。

不動産の中には、例えば田舎の土地のように借り手が見つからない(貸せない)物件も存在します。

このような貸せない物件は、基本的に収益還元法は適用できません。

取引事例比較法を使った不動産の評価方法

取引事例比較法を使った不動産の評価方法

国土交通省が示す不動産鑑定評価基準によると、取引事例比較法は以下のように定義づけられています。

【取引事例比較法】
取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法である。

出典:不動産鑑定評価基準|国土交通省

この章では、上記の定義に基づき、取引事例比較法の具体的な手順について解説します。

1.近隣の事例を収集する

取引事例比較法では、「まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行う」ことから始めます。

ここで集めた事例を、適切に選択することがポイントです。
適切な事例とは、できる限り直近に近く、条件も類似した事例になります。

例えば、50坪の土地を査定するのに、1,000坪の事例を集めてもあまり意味がありません。
また、10年前の事例を集めてきても、現状からかけ離れている可能性があるといえます。

50坪の土地を査定する場合には、近所に存在する40~60坪程度の事例が適切であり、取引時点もできれば1年以内のものがふさわしいです。

2.事情補正・時点修正を反映させる

取引事例比較法の定義の中には、「必要に応じて事情補正及び時点修正を行う」という文言があります。

事情補正とは、取引事例に売り急ぎや買い進み等の何らかの事情があると考えられる場合は、正常な状況を前提とした価格に補正することです。
売り急ぎとは焦って安く売ること、買い進みとは焦って高く買うことを指します。

事情は外部からは判断できないため、実務においては事情補正が必要となる取引事例はそもそも採用しないことが通例です。
正常な事例だけを集めていれば、事情補正は必要ありません。

また、時点修正とは、取引時点と価格時点が離れている場合に取引価格を修正するという手順のことです。

不動産の価格は一般的に市況によって変動するため、「いつ時点の価格か」という点がとても重要です。
いつ時点の価格かを決めないと価格が決まらないため、査定を行う際は必ず価格時点を決めます。

例えば価格が上昇傾向にある時期は、1年前の取引事例の価格よりも価格が上がっているはずです。

マンションで隣の部屋が1年前に5,000万円で売れている場合、今売ったら5,200万円くらいだろうと調整することが時点修正になります。

3.地域要因・個別的要因を比較し価格を算出する

取引事例比較法の定義の中には、「地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って」という文言があります。

地域要因の比較とは、取引事例が存在する地域と対象地がある地域の差を修正する手順のことです。

近くにある事例であっても、例えば表通りにある事例と裏通りにある事例では地域の特徴が異なります。

対象地が裏通りにあって、表通りの事例を採用する場合には、表通りの事例を地域要因の比較によって修正し、検証することになります。

個別的要因の比較とは、取引事例によって求められた相場から対象地の個性に着目して修正する手続きのことです。

例えば対象地が角地の場合、相場よりも価格が高くなります。

4.標準地の単価を求め補正する(標準化補正)

標準化補正とは、取引事例比較法で扱う事例の個性の修正のことです。
例えば、角地の取引事例がある場合、その事例の価格は相場の価格よりも若干高く取引されているはずです。

相場を求めるにあたっては、取引事例の個性による差を省く必要があります。

角地の事例を角地でない場合の価格に修正し、際立った個性を省いた状態で取引事例を比較することで相場を求めます。

取引事例比較法で評価するメリット

取引事例比較法で評価するメリット

この章では、取引事例比較法で評価するメリットについて解説します。

評価方法が簡便で分かりやすい

取引事例比較法は価格の求め方が簡便であり、かつ直感的でわかりやすい点がメリットです。

実際の事例を根拠に価格を求めるため説得力があり、査定結果の説明を受ける人も納得感が得やすいといえます。

実際の売却額に近い金額を算出できる

取引事例比較法は、事例から価格を求めることから、実際の売却額に近い金額を算出できる点がメリットです。

査定価格はあくまでも売却予想価格であるため、その金額で売れることを保証するわけでありません。

しかしながら、「近くの似たマンションが最近4,000万円で売れたから、このマンションも4,000万円で売れる」というロジックで求めた価格は、信憑性が高いです。

信憑性が高い価格は、実際にその価格で売れる可能性も高くなります。

取引事例比較法で評価する際の注意点

取引事例比較法で評価する際の注意点

取引事例比較法は分かりやすいというメリットはあるものの、万能ではありません。
この章では、取引事例比較法で評価する際の注意点について解説します。

事例が少ないと正確な査定がしづらい

取引事例比較法で精度の高い価格を算出するには、豊富な取引事例が存在するという前提が必要です。

例えば、田舎で取引事例がほとんど存在しない場合、前提が崩れることから正確な査定がしにくくなります。

対象物件の個性が強いと精度が劣りやすい

取引事例比較法では、取引事例から相場を求め、相場の価格と対象地の個別的要因を比較することで最終的な価格を算出します。

この際、対象地の個性が強いと、相場の価格からの乖離が激しくなるため、精度が劣りやすいです。

例えば、対象地が道路から低い位置にあり、さらに不整形で、敷地内にも傾斜があるといった悪条件が重なりあった個性の強い土地であるとします。

近隣の相場が坪50万円であったとしても、これだけ個性が強いと個別的要因の比較によって坪20~30万円くらいに下がってしまう可能性があるかもしれません。

戸建ての査定には向いていない

取引事例比較法は、戸建ての査定には向いていません。

理由としては、戸建ては土地と建物から構成されるため、比較すべき要因が多過ぎて説得力を欠いてしまうからです。

土地だけでも、立地や面積、形状、接面状況といった要因があります。
さらに建物には、築年数や面積、間取り、仕様といった要因も存在します。

比較すべき要因が多過ぎて、計算の途中で妥当性を失ってしまうため、戸建ては取引事例比較法が向いていないのです。

そのため、戸建てに関しては土地だけ取引事例比較法を用い、建物は原価法を適用することが一般的となっています。

まとめ

以上、取引事例比較法について解説してきました。
不動産の原則的な評価方法としては、取引事例比較法と原価法、収益還元法の3つがあり、その中のひとつである取引事例比較法は市場性に着目した手法です。

取引事例比較法は、マンションや土地の査定に適しています。
取引事例比較法のメリットは分かりやすいという点で、デメリットは事例が少ない場合に精度が劣るという点です。
不動産会社から査定結果の説明を聞く際に、参考して頂ければと思います。

この記事のポイント

取引事例比較法とは?

取引事例比較法とは、最近の近所の似た物件の事例から売却価格を推測するという評価方法で、主に土地(更地)や区分マンションの査定に用いられます。

詳しくは「取引事例比較法とは?3つの不動産評価方法を紹介」をご覧ください。

取引事例比較法のメリットは?

取引事例比較法は価格の求め方が簡便であり、かつ直感的でわかりやすい点がメリットです

実際の事例を根拠に価格を求めるため説得力があり、査定結果の説明を受ける人も納得感が得やすいといえます。

詳しくは「取引事例比較法で評価するメリット」をご覧ください。

ライターからのワンポイントアドバイス

取引事例比較法は、査定する人が意図的に価格の高い事例や低い事例を集めて査定をすると、当然ながら査定結果が高くなったり、安くなったりします。仮に不動産会社が高い査定価格を提示して仲介の契約を取ろうとした場合、意図的に高い事例だけ集めて査定をすれば、あたかも適切な根拠があるかのように高い査定価格が提示できます。
そのため、根拠があるからといって査定価格が適切とは限らないということです。適切な査定価格かどうかを見抜くには、複数の不動産会社の査定結果を比較して検証することが望ましいといえます。

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