諾成,契約
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不動産の諾成契約とは?要物契約との違いなどをわかりやすく解説

執筆者プロフィール

竹内 英二
不動産鑑定士

不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、住宅ローンアドバイザー、中小企業診断士の資格を保有。
https://grow-profit.net/

ざっくり要約!

  • 諾成契約とは当事者の合意だけで成立する契約のこと
  • 不動産の取引は諾成契約に分類される契約だが、トラブルを避けるために書面で契約することが一般的

不動産では取引を行う際、売買契約や賃貸借契約を締結します。
売買契約や賃貸借契約は、民法上、諾成契約に分類される契約です。

諾成契約は書面がなくても双方の合意があれば成立する契約ですが、不動産取引の場合、トラブルを避けるため、書面で契約を行うことが一般的となっています。

諾成契約とは、どのようなものなのでしょうか?
この記事では、「諾成契約」について解説します。

諾成契約(だくせいけいやく)とは

諾成契約(だくせいけいやく)とは

諾成契約とは、民法による契約の分類のひとつです。
申し込みと承「諾」だけで「成」立する契約であるため、諾成契約と呼ばれます。

この章では、諾成契約について解説します。

諾成契約の法的な定義

諾成契約とは、当事者の合意だけで成立する契約のことです。

民法では、第522条1項に諾成契約の定義が記載されています。

【民法第522条1項】
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

諾成契約は、民法上、契約成立に物の引き渡しが必要か否かという観点で分類したときの契約の一つです。

諾成契約では、双方が「こういう条件で契約しましょう」と合意するだけで成立し、契約の成立にあたり物の引き渡しや金銭の支払いは不要である点が特徴となります。

なお、民法上の契約の代表的な分類方法には、「お金を払うか否か」と「当事者に義務が生ずるか否か」、「契約成立に物の引渡が必要か否か」で分ける方法があります。

分類方法別にみる契約の名称と内容は、下表の通りです。

分類方法契約名称内容
お金を払うか否か有償契約お金を払う契約
無償契約タダでする契約
当事者に義務が生ずるか否か双務契約当事者双方に義務が生じる契約
片務契約当事者の一方にしか義務が生じない契約
契約成立に物の引渡が必要か否か諾成契約申込と承諾だけで成立する契約
要物契約物を引渡してはじめて成立する契約

諾成契約は当事者の合意で成立

諾成契約は、当事者の合意があれば成立する点が特徴です。
つまり、書面がなくても口頭で合意をすれば契約が成立してしまいます。

ここで、中古マンションの売買の流れを例に諾成契約が成立するタイミングを示します。
買主が買付証明書を発行してから引渡までの流れは、以下の通りです。

  1. 買主が売主に買付証明書を交付
  2. 売主が買主に売渡承諾書を交付
  3. 売買契約書を締結
  4. 残金決済・引渡

マンション売却では、購入希望者が物件を気に入ると、買主が売主に対して購入の正式な意思を表示するために買付証明書を交付します。

買付証明書は買主の一方的な意思表示であるため、買付証明書を受領しただけでは、諾成契約は成立しません。

場合によっては、買付証明書を受領した後、売主が売渡承諾書を返すことがあります。
売渡承諾書とは、売主が買主に対して売却の正式な意思を表示するための書面です。

売渡承諾書を提出したということは、売買に関して合意をしたということであり、諾成契約はこの時点で成立します。

ただし、買付証明書が交付されることは一般的ですが、売渡承諾書の交付は省略されることもあります。

また、諾成契約では書面までは求められていないため、売渡承諾書を提出するか否かに関わらず、売主が合意をすれば契約は成立するということです。

不動産の売却では、買付証明書の受領後、売買契約書を書面で締結します。
残金決済・引渡は、売買契約の締結後、約1~1.5カ月後に行うことが一般的です。

出典:民法|e-Gov法令検索

諾成契約に分類される不動産契約

諾成契約に分類される不動産契約

不動産に関わらず、一般的に多くの契約は諾成契約に分類されます。
この章では、諾成契約に分類される代表的な不動産契約についてそれぞれ解説します。

不動産賃貸借契約

賃貸借契約とは、貸主が物件を使用収益させることを約し、借主が賃料を支払うことを約すことで成立する契約のことです。

賃貸借契約は、双方の意思が合意すれば成立する諾成契約になります。

また、賃貸借契約は借主が対価である賃料を払う契約であるため、有償契約です。
貸主には使用収益させる義務があり、借主には賃料を支払う義務があるため、双務契約にもなります。

つまり、賃貸借契約は諾成契約かつ有償契約で、さらに双務契約であるということです。

賃貸借契約と類似のものに、使用貸借契約があります。
使用貸借とは、借主が無償で借りることができる契約のことです。

賃貸借との違いは、賃貸借が有償契約であるのに対し、使用貸借が無償契約であるという点になります。

賃貸借契約は諾成契約ですが、実務上はトラブルを避けるために書面で契約することが通常です。

なお、賃貸借契約のうち、定期借家契約は借地借家法によって書面により契約しなければならないことが定められています。

定期借家契約とは、契約期間の満了とともに終了し、更新ができない契約のことです。

借地借家法は民法の特別法(適用対象がより特定されている法のこと)と解されているため、借地借家法の規定が優先されます。

定期借家契約は書面による締結が要件とされているため、書面で合意しなければ効力を生じない点が特徴です。

不動産売買契約

売買契約とは、売主がある財産権を買主に移転することを約し、買主がこれに対して代金を支払うことを約することによって成立する契約のことです。

対価の支払いがあり、また売主には引渡義務、買主には代金支払い義務があることから、売買契約も諾成契約かつ有償契約で、さらに双務契約となります。

なお、不動産の売買契約では売買契約時に買主が手付金を支払います。

売買契約に付随する手付契約は、手付金の授受があってはじめて成立する契約であり、判例では要物契約とされています。

不動産贈与契約

贈与とは、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受託することによって効力が生じる契約です。

当事者の一方のみに義務が生じるため片務契約であり、当事者の一方は対価を支払わないため無償契約となります。

つまり、贈与契約は諾成契約かつ無償契約で、さらに片務契約であるということです。

諾成契約の対義語となる要物契約とは

諾成契約の対義語となる要物契約とは

諾成契約は、契約成立に物の引渡が必要か否かによる分類でしたが、この諾成契約の対になる概念の契約を「要物契約」と呼びます。

要物契約とは、当事者の申し込みと承諾だけでは足りず、物を引渡してはじめて成立する契約のことです。

要物契約の代表例は、「消費貸借」になります。

消費貸借とは、当事者の一方(借主)が種類、品質および数量の同じものをもって返還することを約して相手方(貸主)から金銭その他のものを受け取ることで効力が生じる契約のことです。

具体的には、お金の貸し借りが消費貸借契約になります。

要物契約から諾成契約に変更されたケース

要物契約から諾成契約に変更されたケース

2020年4月に施行された改正民法により、要物契約の多くが諾成契約へと変更されています。

変更の理由としては、実際の取引の実情と合わせるためです。
この章では、改正民法により諾成契約に変更された契約を紹介します。

代物弁済契約

代物弁済とは、本来の債務の弁済に代えて別の給付を行う契約のことです。
例えば、100万円の借金を返す代わりに高級腕時計を譲ることで弁済するといった契約が該当します。

書面による消費貸借契約

書面による消費貸借契約とは、口頭ではなく、書面または電磁気的記録により締結した消費貸借契約のことです。

例えば、契約書面によって100万円を借りて、100万円を返す契約が該当します。

通常、銀行との間で締結する金銭消費貸借契約は書面で行われることが一般的であるため、銀行でお金を借りる契約は諾成契約となります。

つまり、書面によって合意した金銭消費貸借契約は、金銭の授受を待たずして契約が成立するということです。

なお、書面や電磁的記録によらない消費貸借の場合には、従来通り、要物契約のままとなります。

使用貸借契約

使用貸借とは、物を無償で貸し渡し、後で返してもらう契約のことです。
例えば、親が子に無償で土地を貸す契約が該当します。

寄託契約

寄託とは、受寄者が寄託者のために物を保管する内容の契約です。
例えば、倉庫に荷物を預ける等の契約が該当します。

出典:民法|e-Gov法令検索

諾成契約を結ぶ際の注意点

諾成契約を結ぶ際の注意点

諾成契約を締結する際は、トラブルにならないよういくつか注意すべき点があります。
この章では、諾成契約を締結するにあたり、特に注意しなければならない点について解説します。

法的に必要なくても書面を作成する

不動産の取引は、例えば売買契約では金額が大きく、賃貸借契約では期間が長いといった特徴があります。

後日、トラブルが発生したときに、売買契約では被害が大きい、賃貸借契約では契約当時の内容を忘れてしまうといったリスクがあります。

そのため、不動産の取引では、トラブルを避けるためにも書面で契約することが一般的です。

口頭契約では「言った・言わない」で揉めることがありますが、契約書が残っていれば証拠となります。

契約締結日と引渡日の違いを意識する

売買契約や賃貸借契約では、売買契約と引渡日が異なることが一般的です。

例えば、新築マンションの購入では、売買契約日から実際の引渡日が半年以上も離れることもあります。

契約日と引渡日との間に時間が空くことから、その間にトラブルが発生する可能性もあるでしょう。

よって契約締結後、双方の事情が変更したことにより、契約を解除せざるを得ないこともあります。

契約日と引渡日が離れている場合は、その間の契約解除方法や解除可能期限も確認しておくことが重要です。

まとめ

以上、諾成契約について解説してきました。
諾成契約とは、契約成立に物の引渡が必要か否かという分類方法で分けられた契約であり、当事者の合意があれば成立する契約のことです。

不動産の契約の多くは、諾成契約に該当します。
不動産の取引で諾成契約を締結するには、「法的に必要なくても書面を作成する」ことや、「契約締結日と実行日・開始日の違いを意識する」ことが注意点です。
諾成契約を締結するうえで、参考にして頂ければと思います。

この記事のポイント

諾成契約(だくせいけいやく)とはどんな契約?

諾成契約とは、当事者の合意だけで成立する契約のことです。

諾成契約は民法上、契約成立に物の引き渡しが必要か否かという観点で分類したときの契約の一つです。

諾成契約では、双方が「こういう条件で契約しましょう」と合意するだけで成立し、契約の成立にあたり物の引渡や金銭の支払いは不要である点が特徴となります。

詳しくは「諾成契約(だくせいけいやく)とは」をご覧ください。

要物契約から諾成契約に変更されたケースにはどんなものがある?

2020年4月に施行された改正民法により、要物契約の多くが諾成契約へと変更されています。変更の理由としては、実際の取引の実情と合わせるためです。

そのひとつが代物弁済で、本来の債務の弁済に代えて別の給付を行う契約のことです。

例えば、100万円の借金を返す代わりに高級腕時計を譲ることで弁済するといった契約が該当します。

詳しくは「要物契約から諾成契約に変更されたケース」をご覧ください。

ライターからのワンポイントアドバイス

諾成契約は、概念上は口頭でも成立するため、非常に柔軟な契約形態です。しかしながら、実務上の不動産の取引では、多くの場合トラブルを避けるために書面による契約が一般的となっています。書面による契約は硬直的ですが、その分、証拠力は高いです。後日、疑義やトラブルが発生したときに書面に書いてある内容が判断基準となります。書面による契約は、口頭契約のデメリットを補う役割が存在します。
契約書面は後々重要な役割を果たすため、契約の際はしっかり内容を理解したうえで締結することが適切です。

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