元プロ体操選手・内村航平さん
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元プロ体操選手・内村航平さんに聞く暮らしのこだわり。刺激的な現役時代と自由を楽しむ今

憧れのライフスタイルを送る話題の人に、暮らしと住まいのこだわりをお聞きする本企画。今回登場いただくのは、元プロ体操選手の内村航平(うちむらこうへい)さん。オリンピックや世界体操競技選手権などで数多くのメダルを獲得してきた内村さんの現役時代から引退後の現在、ちょっと意外な暮らしのこだわりやご自宅遍歴などを伺いました。

内村航平さんプロフィール
1989年福岡県北九州市出身、長崎県諫早市育ち。3歳で体操を始め、15歳で単身上京。現役時代はオリンピック4大会(2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロ、2020年東京)に出場し、個人総合2連覇を含む7つのメダル(金メダル3、銀メダル4)を獲得。また、世界体操競技選手権でも個人総合での世界最多の6連覇を含む21個のメダル(金メダル10、銀メダル6、銅メダル5)を獲得している。
<SNS情報>
公式サイト「内村航平オフィシャルウェブサイト
Instagram「KOHEI UCHIMURA 内村航平

生まれ育った自宅は「体育館」

誰もが知る日本体操界のレジェンド・内村航平さん。2022年3月に現役を引退するまでの間、オリンピックや世界体操競技選手権をはじめとする大会で、数多くのメダルを獲得するなど、輝かしい記録を生み出してきました。

数多くの輝かしい実績から「キング」と呼ばれた現役時代(内村さん提供)
数多くの輝かしい実績から「キング」と呼ばれた現役時代(内村さん提供)

そんな内村さんは福岡県北九州市生まれ、長崎県諫早市(いさはやし)育ち。元体操選手である両親のもと、3歳から体操を始めたそうです。

「諫早市は、山も海もある自然に囲まれた町。僕が住んでいた地域は山が多く、虫がたくさんいたのを覚えています。なので、幼い頃は虫を捕まえて遊んだりしていましたね。

とはいえ“自宅が体育館”という、特殊な環境で育ったので、基本的には外で遊ぶよりも体育館にいることが多かったです」

自宅の体操クラブで練習をする幼少期の内村さん(内村さん提供)
自宅の体操クラブで練習をする幼少期の内村さん(内村さん提供)

内村さんが育ったのは、両親が運営する体操クラブ 兼 自宅。家族揃って体操選手の「体操一家」ということもあり、自宅よりも体育館で過ごす時間が長かったといいます。

「僕が体操を始めた3歳から小学校5年生くらいまでは、ワンフロアの中に体育館と家族が生活する部屋がありました。そこから引っ越しをしたのが現在の実家で、1階が体育館、2階に住まいといった間取りです。

家の中はごく普通で、リビングと両親の部屋、こども部屋がある3LDK。家族みんなが体操をしているので、家でゆっくり過ごす時間はほとんどなかったですね。休みの日は朝から晩まで練習、平日は学校から帰ったらすぐ練習、というスケジュールなので、本当にごはんを食べて寝るだけの空間でした」

生まれ育った自宅は「体育館」

幼少期から体操にストイックな生活を送ってきた内村さん。体操を始めて以降は、友達と外で遊んだ記憶も少ないと話します。自由に遊ぶ友達に対するうらやましさはなかったのでしょうか。

「なかったですね。体操をすることの方が楽しかったので、興味がなかったのかもしれません。たまに友達と遊ぶとしても、必ず外で体を動かしていました。テレビゲームとかは全くしなかったので、ゲーム機の電源の入れ方すら分からないレベルでしたね(笑)。

両親ともに体操選手で、体を動かすことが大好きなふたりのDNAを受け継いでいるので、生まれ持った性質なのだと思います」

住まい探しの条件は「練習場から近いこと」

自宅が体育館という特別な環境に身を置きながらも、更に高みを目指す内村さんは、15歳という年齢で単身上京することを決意します。

地元を離れ、はじめて住んだ街は東京世田谷区の千歳烏山(ちとせからすやま)。当時、住まい探しの決め手は「練習場から近いこと」のみだったと話します。

「千歳烏山の家は、まさに練習場の目の前。同じく上京してきた体操クラブの先輩たちがそこで共同生活をしていて、一緒に住まわせてもらいました。間取りは3LDKで、僕は1つ上の先輩と同じ部屋。共同生活については特にストレスもなかったです。というより体操以外のことは、ほとんど何も考えていなかったんですよね」

住まい探しの条件は「練習場から近いこと」

そうして東京での生活が始まり、高校時代は学年が上がるたびに引っ越しをしていたそうです。

「卒業した先輩が抜けていくにつれて人数が減っていくじゃないですか。そうすると、みんなで家賃を割っていた分、1人当たりの金額が高くなるんですよ。なので、2年生になったら、一緒に暮らしていたメンバーで三鷹台へ引っ越しました。その家は、本当に蹴ったら壊れそうな家でしたね(笑)。3年生になってからは、井の頭公園の近くの学生寮みたいなアパートに引っ越して、1人暮らしをスタートしました」

その後、大学4年間の寮暮らしを経て現役引退までの間、住まい探しの条件は変わらず「練習場から近いこと」。

「とにかく移動の時間が無駄だと思っていたんです。これから練習で体を動かさなきゃいけないのに、移動に30分とかかけるのは効率が悪いから、パッと行って帰れる場所がいい。なので、立地以外の条件はほとんどなかったですね」

現役時代も今も部屋は「段ボール」だらけ

体操一筋だった現役時代、日々の練習に多忙を極める内村さんにとって、自宅は「ただ寝る場所」だったと語ります。

「現役時代のリフレッシュ方法は、ひたすら寝ること。毎日練習をしていると体はもちろん精神も疲弊した状態で帰ってくるので、とにかく寝れるだけ寝ないと回復しないんですよ。なので、休みの日は、12時間以上寝ていましたし、海外の試合に長期で行ったあとは、丸一日寝たりすることもありましたね。人って体調崩したとき寝るじゃないですか。それと同じで、体を回復させる上で寝るのって一番大事なことだと思うんです」

こだわりの寝具は、自分専用にオーダーメイドした「エアウィーヴ」のマットレス。現役時代より使い始め、現在も愛用しているそうです。

愛用しているエアウィーヴのマットレス(内村さん提供)
愛用しているエアウィーヴのマットレス(内村さん提供)

内村さんのご自宅といえば、体操に向き合うストイックなイメージから、インテリアにこだわったオシャレな空間を想像する人が多いと思いますが、実際にはどうなのでしょうか。尋ねてみると、まさかの回答が。

「インテリアに全く興味がないんですよ。なので、部屋は段ボールだらけです。服をしまうのも段ボールですし。そうすれば、引っ越しするときにも楽じゃないですか。基本効率しか考えていないんですよね」

現役時代も今も部屋は「段ボール」だらけ

なんと、現役時代のみならず現在も「段ボールだらけの部屋」は健在だそう。

その後、続けてメダルの保管場所を伺うと「それも多分段ボールの中ですね」とクールに答える内村さん。

「もちろん大切なものではあるのですが、メダルそのものに執着心はないんですよね。取った事実があるので、それで十分かなと思っているんです」

その潔さは、たくさんのメダルを持つレジェンドならではなのかもしれません。

「自由」は増えたけど「刺激」はない

2022年3月に現役を引退した内村さん。引退前後で、ご自宅での過ごし方に変化はあったのでしょうか。

「だいぶ変わりましたね。まず、引退してからゴルフを始めたのが大きいと思います。なので、家で素振りをしたりパターをしたり。あとは、家にいる時間が長くなったので、漫画を読んだりNetflixを観たりもします」

物心ついたときには、体操中心の生活だった内村さん。当初は、大幅に「自分の時間」が増えた引退後の生活に対して戸惑いもあったと話します。

「自由」は増えたけど「刺激」はない

「練習がないと体力が有り余っているので、最初は『何をしたらいいんだろう』と戸惑っていましたね。“自由は増えたけど、刺激はない”という感じ。現役時代はものすごいプレッシャーの中で生きていたので、ちょっと物足りない感じはありますが、戻りたいかと言われると戻りたくはないです。もう一生分の刺激は受けたと思うので、こういう人生も悪くないかなと思って生活していますね」

とはいえ、仕事の中で体操の技を披露する機会も多いそうで、練習場でのトレーニングのほか、自宅でのトレーニングも欠かせないそう。

「多分みなさんが想像する自宅トレーニングより、はるか上のことをやっていると思います(笑)。リビングにマットレスを敷いて、回転したり倒立したり。普通の部屋なので、天井の高さに合わせて低い位置で回転するんですよ。現役時代は、家でトレーニングはしなかったんですけど、コロナ禍に家でのトレーニングを余儀なくされたとき、ちょっとやってみたら意外とできたんです」

また、引退後は「住まい探し」の条件に変化も。

「引退後は、空港に近いことが第一条件になりました。仕事の移動で飛行機に乗ることが多いので、効率を考えての条件ですね。もちろん綺麗な方がいいとか、部屋数が多い方がいいという希望はあるんですけど、基本はやっぱり立地が大事ですね」

お気に入りは偶然出会った「カーペット」

ガラリと変わった引退後の生活。現役時代も現在も、インテリアについて「こだわりがない」と話す内村さんの、ご自宅にあるお気に入りを教えていただきました。

一番のお気に入りとしてあげていただいたのは、意外にも「カーペット」。

お気に入りのカーペットと倒立に使うトレーニング器具(内村さん提供)
お気に入りのカーペットと倒立に使うトレーニング器具(内村さん提供)

「某インテリア量販店で何となく買ったものなんですけど、思いのほかよくて。ちょっと分厚くて毛足が長いタイプで、ストレッチをするのにもぴったりなんですよ。膝とか踵とか、硬い地面につくと痛いじゃないですか。それが全然痛くないし、何よりゴルフの素振りをしたときに、すごくいい音がするんですよ」と大変お気に入りの様子。

お気に入りのスニーカーコレクション(内村さん提供)
お気に入りのスニーカーコレクション(内村さん提供)

そのほか、ご自宅にはスニーカーのコレクションを収納する大きなシューズインクローゼットも。

「靴だけは劣化しないように、箱に入れて丁寧に管理していますね。特に気に入っているレア物のエアジョーダン3足は、クローゼットにしまわず飾っています。メダルは飾らないくせにスニーカーは飾っているんですよね(笑)」

綺麗に整理されたシューズインクローゼット(内村さん提供)
綺麗に整理されたシューズインクローゼット(内村さん提供)
洋服がぎっしり詰まったウォークインクローゼット(内村さん提供)
洋服がぎっしり詰まったウォークインクローゼット(内村さん提供)

また、洋服も大好きだという内村さん。基本は、段ボールの中にしまうそうですが、仕事の衣装やジャケットなどは、ウォークインクローゼットに収納しているそうです。

新しい趣味「ゴルフ」も体操には勝てない

2024年のパリ五輪では「NHKパリオリンピック2024アスリートナビゲーター」を努めた(内村さん提供)

引退から3年と少し。内村さんがご自宅で過ごすなかで、一番幸せを感じるのはどんな時間でしょうか。

「座って色々なことを考えているときですかね。現役時代は、体操のことしか考えられなかったけれど、今は色々なことを考えられるんです。次の講演やトークショーで何を話そうとか、今後の体操界はどうなっていくんだろうとか。元々考えることが好きなので、その時間がいちばん楽しいですね」

また、引退後にハマっていると話すのが、友人に誘われて始めた「ゴルフ」。休みの日に友人と出かけるほか、実家に帰った際には、お父様とゴルフをすることもあるといいます。

新しい趣味「ゴルフ」も体操には勝てない

「毎日欠かさずやっていることといえば、ゴルフの素振りとパターくらいですかね。現役時代はずっと体を動かして、世界一という目標を立ててやってきたので、多分生活の中に目標を立てて達成したいという思いがあるんですよね。それが、今はゴルフに向いていて、目標のスコアを達成するために日々練習しているんだと思います」

そんな新しい趣味・ゴルフについて話している中で、内村さんが「でも体操には勝てないですけどね」とポロリ。

「今は週に2〜3回しか練習しなくなりましたけど、やるとやっぱり面白いなと思いますし、結局のところいちばん体操が好きですね。練習をしていると、現役時代のことを思い出したりとか、もっとこうしていたら良くできていたかもしれないとか、今でも思ったりするんですよ」

インタビュー中も、体操の話をする内村さんは終始楽しそうで、引退後もなお体操への熱い思いを持ち続けていることが伝わってきました。

理想の住まいは「自分が休まる場所」

現在は、主に講演やトークショーなど、体操の普及活動を行う内村さん。ご自身また今後の体操界について展望を伺うと、

「選手の指導や育成というよりは、一般の方々に対して体操の面白さを伝えていく活動をしていきたいですね」とのこと。

トークショーや講演会などを通じて体操の魅力を伝えている(内村さん提供)
トークショーや講演会などを通じて体操の魅力を伝えている(内村さん提供)

「日本の体操界は、僕が関わらなくても基本的にずっと強いと思うので。今後はどう観てもらうかがすごく大事になってくるかなと思っています。

体操の試合って、サッカーやバスケみたいに声を出していいのかも分からないし、どう楽しんでいいのか分からない人が、きっと多いと思うんです。日本にとってオリンピックでも金メダルを狙える競技で『お家芸』と言われているにも関わらず。なので、例えば、試合ではなくパフォーマンスとして体操をみせられるような機会も増やしていきたいですね」

理想の住まいは「自分が休まる場所」

今後は、引き続き内村さん主導でのイベント開催なども計画するほか、体操のジャンルを超えた活動も予定しているそうです。

最後に、内村さんにとって「理想の住まい」とは?

「体操の器具があって、ゴルフの打ちっぱなしができる家ですかね。それでいて、家の中ではゆっくり休めるような。それには広大な土地が必要なので、実家の両親を追い出せば何とか叶いそうなんですけど……(笑)。もちろんそれはできないので、理想は理想として“自分が休まる場所”であればどこでもいいですね。なので、今の住まいがほとんど理想に近いんだと思います」

  

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