現状有姿
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現状有姿とはどんな意味?契約不適合責任との関係や売却時の注意点を解説

執筆者プロフィール

竹内 英二
不動産鑑定士

不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、住宅ローンアドバイザー、中小企業診断士の資格を保有。
https://grow-profit.net/

ざっくり要約!

  • 現状有姿とは不動産の売買において物件をそのままの状態で引き渡す契約条件のこと
  • 現状有姿で売主に契約不適合責任を免責されてしまうと、買主は売主に対して修繕等を請求できなくなる

中古物件の売買では、現状有姿を前提に売買が行われることがよくあります。
現状有姿とは、物件をありのままの状態で引き渡すことです。

築年数の古い物件は、どこに欠陥が潜んでいるか分からないため、実際問題として現状有姿を条件にしないと取引できないことも多いです。
現状有姿は円滑な売買を行うために便利ですが、便利過ぎるがゆえに注意点も存在します。
この記事では、「現状有姿」について解説しますので、ぜひ参考にしてください。

現状有姿とは

現状有姿とは

現状有姿とは、不動産の売買において物件をそのままの状態で引き渡す契約条件のことを指します。

物件に欠陥があろうがなかろうが、「ありのままの姿」で引き渡す条件が現状有姿です。

現状有姿で取引を行うには買主の合意が当然必要であり、買主は欠陥があったとしてもそのまま受け入れて購入し、売主に修繕等の請求をしないことが前提となります。

築年数の古い物件では、物件が抱えている細かい欠陥まで売主が全て把握することは現実的に不可能です。

売主が全ての欠陥を洗い出していたらキリがありませんし、買主も全ての欠陥を開示して欲しいとまで思っていないこともあります。

中古物件の取引においては、現状有姿という条件を採用せざるを得ないのが現実的であり、昔からよく行われている契約条件となっているのです。

現状有姿と契約不適合責任の関係

現状有姿と契約不適合責任の関係

2020年4月1日の民法改正により、契約不適合責任という売主責任が創設されました。
現状有姿は、民法改正以前からよく行われていた取引です。

この章では、現状有姿と契約不適合責任の関係について解説します。

契約不適合責任とは

契約不適合責任とは、契約の目的とは異なるものを売ったときに売主が問われる責任のことです。

物件が契約内容と異なるときは、売主は売却後に買主から追完請求や代金減額請求、契約解除、損害賠償の請求を受ける恐れがあります。

追完請求とは、不適合なものを適合するように求める請求のことです。

不動産取引の場合は、目的物の修補(修繕)請求が追完請求に該当します。

代金減額請求とは、代金を後から減額する請求のことです。

代金減額請求は、買主が追完請求をしたにもかかわらず、売主が修繕を行わないときや、修繕が不可能なときに認められる請求権になります。

損害賠償請求とは、売主に帰責事由がある場合に賠償を請求できる権利のことです。

契約解除は、買主が契約の目的を達成できないときに売買契約を解除できる権利になります。

現状有姿との関係

現状有姿という条件で売ったとしても、それだけで契約不適合責任を免れるわけではありません。

売主が契約不適合責任を回避するためには、売買契約書に現状有姿で引き渡すことに関し、売主は契約不適合責任を一切負わないとする特約を記載することが必要です。

契約不適合責任は契約内容と異なる物件を売った場合に、売主が負う責任となります。

売買契約書に「売主は契約不適合責任を一切負わない」と記載しておけば、その内容で契約したことになるため、売主は契約不適合責任を免れることができます。

現状有姿で瑕疵が認められた判例

現状有姿で取引しても、特約の記載が不適切だと売主責任が生じる場合があります。

神戸地裁平成11年7月30日判決では、引渡後、屋根裏に多数のコウモリが棲息していることが判明し、売主の瑕疵担保責任が認められました。

瑕疵担保責任とは、2020年3月末までに民法で定められていた売主責任のことです。

当該事例は、特約の記載内容がポイントです。
当時、瑕疵担保責任を免責するために、売買契約書には以下のような記載がありました。

売買対象物件が平成7年1月17日に発生した兵庫県南部地震の震災区域内にあることを相互に確認し、本物件は現状有姿にての引渡しとする。本物件について万一、将来兵庫県南部地震を起因とする損傷が発見、発生したとしても買主は売主に対していかなる一切の苦情等を申し述べないこととする。

特約には確かに「現状有姿にての引渡し」と記載されていますが、あくまでも中心的な内容は兵庫県南部地震を起因とする損傷となっています。

コウモリが巣くったことと兵庫県南部地震は関係がないため、現状有姿と記載していたとしても売主は瑕疵担保責任を負わなければならないという判例が出されました。

そのため、文言の中に「現状有姿」という言葉が使用されていたとしても、免責事項の書き方によっては売主責任を負うケースもあるということになります。

出典:住宅業界に関連する民法改正の主要ポイント|国土交通省
日本住宅性能検査協会<参考判例集>|NPO法人日本住宅性能検査協会

【売主側】現状有姿特約のメリット・デメリット

【売主側】現状有姿特約のメリット・デメリット

現状有姿は売主にとって便利な言葉であり、大きなメリットが存在します。
この章では、売主側から見た現状有姿のメリットとデメリットについて解説します。

メリット

売主側のメリットは、現状有姿で売れば特に修繕をせずに売ることができるという点です。

事前にどこに不具合があるか調査することも不要ですし、修繕費用も節約できます。

また、契約不適合責任も売買契約書で適切に免責すれば、売却後に売主責任を負わなくて済む点もメリットです。

デメリット

現状有姿による売却は、売却価格が安くなる傾向がある点がデメリットです。

買主は基本的に不具合のない物件を求めているため、現状有姿を条件にすると相場よりも割安な金額でなければ買い手がつきにくい傾向があります。

一般的に現状有姿で売却する際は、金額を減額したうえで合意することも多いです。
高く売りたいのであれば、不具合部分の修繕を行ったうえで売却することが必要となります。

【買主側】現状有姿特約のメリット・デメリット

【買主側】現状有姿特約のメリット・デメリット

現状有姿は買主にも相応のメリットが存在することから、昔から行われています。
この章では、買主から見た現状有姿のメリットとデメリットについて解説します。

メリット

買主側のメリットは、現状有姿の条件を容認することで、希望の物件を手に入れやすくなる点です。

例えば立地の良い物件があり、買主がどうしてもその物件を欲しい場合、売主に対して現状有姿で買う条件を提示することで購入できる場合があります。

売買の条件は売主と買主の力関係で決まるため、立地の良い物件では売主有利となり、現状有姿でも購入したがる買主は多いです。

デメリット

現状有姿で売主に契約不適合責任を免責されてしまうと、買主は売主に対して修繕等を請求できなくなる点がデメリットです。

そのため、買主としてはデメリットを上回るメリットがないと現状有姿での購入はしにくくなります。

例えば、非常に良い立地の物件である、相当に割安な物件である等の大きなメリットが必要です。

現状有姿特約の売却時の注意点5つ

現状有姿特約の売却時の注意点5つ

現状有姿で物件を売却する場合、いくつかの点に注意する必要があります。
この章では、現状有姿で売る際の注意点を解説します。

物件に関する情報はすべて伝える

物件に関して不具合がある場合には、不動産会社に全て情報を伝えておくことが必要です。

不動産会社は、物件状況報告書(いわゆる告知書)という書面の記載を売主に求めます。

告知書には、売主が知っている不具合について正直に記載することが必要です。
不動産会社も、告知書の内容を見て対応策をアドバイスしてくれます。

専門的な調査をして欠陥を確認しておく

万が一、現状有姿で売れない場合には、修繕が必要となるケースも考えられます。

現状有姿で購入してくれる買主が見つからない場合は、建物状況調査(インスペクション)を実施して売主側で修繕できる内容であるかどうかを確認することも必要です。

残置物は売主と買主で調整する

現状有姿でも、残置物は売主側で処分したうえで引き渡すことが原則です。
ただし、買主の合意が得られれば、家財道具等を残したままでも売ることはできます。

残置物も買主に引き取ってもらいたい場合には、買主とも事前に協議をすることが必要です。

買主に事前にしっかり内覧してもらう

現状有姿で引き渡すにしても、買主には事前にしっかりと物件を確認してもらうことが適切です。
売主が把握している欠陥があれば、できる限り説明しておくことでトラブルを回避しやすくなります。

売買契約書に適切な内容の免責事項を記載する

現状有姿で売却をする場合、売買契約書の特約に適切な表現の免責事項を記載することが注意点です。

前述の「現状有姿で瑕疵が認められた判例」の部分で紹介した現状有姿が否認された事例は、免責事項の記載内容が問題でした。

「兵庫県南部地震を起因とする」等の文言を追記したがゆえに、コウモリの巣について売主責任が問われてしまった事例です。

現状有姿は、ありのままの状態で引き渡すことであることから、特約には特定の前提条件は加えない方が良いといえます。

例えば、以下のような文言であれば、極めてシンプルであり、どのような欠陥が発見されても契約不適合責任を問われにくいです。

【特約例】
売主は本物件を現状有姿のまま買主に引き渡すものであり、買主に対し本物件の種類、品質又は数量に関する契約不適合を理由とする一切の責任(追完、代金減額、解除および損害賠償等)を負わないものとする。

売主は、特に売買契約書の契約不適合責任を免責するための特約事項について、十分に確認することが望ましいといえます。

まとめ

以上、現状有姿について解説してきました。
現状有姿は、個別に物件の欠陥を洗い出す必要がなく、そのまま引き渡すことができるため、便利な売買条件です。
買主にとっても、欲しい物件をスムーズに購入できるというメリットがあります。

現状有姿で取引するとしても、売主が契約不適合責任を回避するには特約を記載しておくことが必要です。
契約を締結する前は、特約も含めて記載内容をしっかりチェックすることをおすすめします。

この記事のポイント

現状有姿とは?

現状有姿とは、不動産の売買において物件をそのままの状態で引き渡す契約条件のことです。

現状有姿で取引を行うには買主の合意が当然必要であり、買主は欠陥があったとしてもそのまま受け入れて購入し、売主に修繕等の請求をしないことが前提となります。

詳しくは「現状有姿とは」をご覧ください。

現状有姿と契約不適合責任の関係は?

現状有姿という条件で売ったとしても、それだけで契約不適合責任を免れるわけではありません。

売主が契約不適合責任を回避するためには、売買契約書に現状有姿で引き渡すことに関し、売主は契約不適合責任を一切負わないとする特約を記載することが必要です。

詳しくは「現状有姿と契約不適合責任の関係」をご覧ください。

ライターからのワンポイントアドバイス

現状有姿は、民法が改正される前の瑕疵担保責任の制度があった時代からよく使われていた言葉です。瑕疵担保責任から契約不適合責任に変わった時点で、従来から行われていた現状有姿の取引はどう扱うかが話題になりました。築古物件では実際のところ現状有姿にしないと取引ができないという現実があり、契約不適合責任になってからも現状有姿取引はよく行われています。
重要なのは現状有姿でも契約適合責任を回避するためには特約の記載が必要となるという点です。現状有姿で売却をする場合は、特約に免責事項をしっかり記載して頂ければと思います。

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