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マンションの消防設備点検は管理者の報告義務あり!住民不在時に勝手に入るとどうなる?

執筆者プロフィール

竹内 英二
不動産鑑定士

不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、住宅ローンアドバイザー、中小企業診断士の資格を保有。
https://grow-profit.net/

ざっくり要約!

  • 賃貸マンションの場合、所有者が消防設備の点検義務がある管理権限者に該当する
  • 賃貸マンションの所有者は、管理会社を通じて専門の事業者に点検を委託し、消防署への報告を行うことが必要

アパートやマンション等に設置されている消防用設備は、いざ建物に火災が発生したときに正常に作動することが求められます。

火災時の正常な作動を担保するには、平常時から消防設備が正常に作動することを点検しておくことが必要です。

一定規模以上の賃貸マンションでは、消防用設備の定期点検と報告義務が課されています。
消防設備点検は、どのようなマンションに義務付けられ、どういう点検をしなければならないのでしょうか?
この記事では、賃貸マンションのオーナーを対象に「消防設備点検」について解説します。

マンションの消防設備点検とは

マンションの消防設備点検とは

マンションの消防設備は、火災時に正常な作動が求められることから、本来であればすべてのマンションで定期的に設備の点検することが望ましいです。

ただし消防点検は法律上、一定規模以上の共同住宅に対して定期点検と報告の2つの義務が課されています。

以下より、法律で消防設備点検が義務付けられている共同住宅の消防設備点検について紹介します。

消防設備点検とは

消防設備点検とは、火災時に消防用設備が正常に作動することを目的に、定期的に設備が正常に動くことを確認する作業のことです。

消防用設備とは、建物に火災が発生したときに、火災の感知や報知、連絡、通報、消火、避難および誘導が安全かつ迅速にできることを目的に設置された設備を指します。
また、消防隊の活動を支援することを目的に設置した設備も、消防用設備に含みます。

賃貸マンションの場合、所有者が消防設備の点検義務がある管理権限者に該当し、所有者は管理会社を通じて専門の事業者に点検を委託し、消防署への報告を行うことが必要です。

法律的な位置づけ

消防法上、建物は「非特定防火対象物」と「特定防火対象物」の2つに大別されます。

非特定防火対象物とは、不特定多数の人が出入りする用途ではない建物のことです。
具体的には、共同住宅や学校、寺院、工場、事務所等が非特定防火対象物となります。
賃貸マンションは非特定防火対象物に含まれます。

特定防火対象物とは、不特定多数の人が出入りする用途の建物のことです。
具体的には、デパートやホテル、病院、飲食店、地下街等が特定防火対象物となります。

賃貸マンションのような共同住宅(非特定防火対象物)では、延床面積が1,000㎡以上の場合に点検と報告が義務付けられています。なお、特定防火対象物については、面積に関わらず義務が生じる場合があります。

非特定防火対象物と特定防火対象物では、非特定防火対象物の方が不特定多数の人の出入りがないことから火災時の危険性は低いとされています。

そのため、報告義務の頻度は非特定防火対象物が3年に1度、特定防火対象物が1年に1度です。

賃貸マンションは非特定防火対象物であることから、消防署への報告は原則として3年に1度で問題ありません。

ただし、建物の一部に特定防火対象物の用途が入っている場合、建物全体が特定防火対象物として扱われる点に注意が必要です。

例えば1階に店舗が入っており、2階以上が賃貸マンションとなっている物件は、1年に1度の報告が必要な特定防火対象物となります。

マンションの消防設備点検の種類と点検実施者

マンションの消防設備点検の種類と点検実施者

消防設備点検には、機器点検と総合点検の2種類があります。
この章では、消防設備点検の種類と点検実施者について解説します。

機器点検

機器点検とは、消防設備機器の外観や機能、作動状況を確認する点検のことです。

機器点検では、主に以下の3つの確認を行います。

  • 消防用設備等に附付置される非常電源(自家用発電設備に限る)または動力消防ポンプの正常な作動
  • 消防用設備等の機器の適正な配置、損傷等の有無、その他主として外観から判別できる事項
  • 消防用設備等の機能について、外観から、または簡易な操作により判別できる事項

機器点検は、6カ月に1度のペースで行うことが義務付けられています。

警報設備

警報設備は事故を知らせる重要な役割があり、作動確認が不可欠です。
消防用設備としての警報設備には自動火災報知機やガス漏れ火災警報設備、漏電火災警報器等があります。

消火設備

消火設備とは、火災時に消化するための設備であり、消火器やスプリンクラーが該当します。
消火器は10年を目処に消火剤を交換することが望ましいため、期限も確認することが必要です。

避難設備

避難設備には、避難はしごや避難器具、誘導灯があります。
避難設備は、常に使用できる状態にあることを確認することが必要です。

消火活動に必要な設備

消火活動に必要な設備には、排煙設備や連結散水設備、連結送水管等があります。
点検では、適切に使用できる状態にあるか確認することが必要です。

総合点検

総合点検とは、設備全体の作動状況を確認する点検のことです。

消防用設備等の機能について全部または一部を作動させ、または当該設備等を使用することにより、当該消防用設備等の総合的な機能を確認します。

総合点検は、1年に1度のペースで行うことが義務付けられています。
総合点検は年1回の点検ですが、前述の機器点検は6カ月に1度であることから年2回の点検です。

機器点検は総合点検と同時に行っても構わないため、消防点検は「機器点検だけ」と「機器点検と総合点検」の年2回に分けて行うことが一般的となっています。

消防設備のうち、火災報知機や避難ハッチ等の避難設備は、室内に入って点検することが必要です。

そのため、原則として総合点検では入居者の立ち合いが必要となります。

点検実施者

賃貸マンションでは、所有者(貸主)が防火対象物の管理権限者とされています。

一定の要件を満たす賃貸マンションの管理権限者は、防火管理者を選任し、防火管理業務を行わせなければなりません。

防火管理者が行う防火管理業務とは、以下のような業務です。

【防火管理業務】

  • 消防計画の作成
  • 消化、通報および避難訓練の実施
  • 消防用設備等の点検、整備
  • 火気の使用または取り扱いに関する監督
  • 避難または防火上必要な構造および設備の維持管理
  • 収容人員の管理
  • その他防火管理上必要な業務

防火管理業務の中には、「消防用設備等の点検・整備」が含まれているため、消防点検は防火管理者が実施します。

防火管理者は、これらの点検・整備が適切に行われるよう計画し監督する責任があり、実際の点検作業は消防設備士などの有資格者(専門業者)に委託することが一般的です。

管理権限者である賃貸オーナーは、管理会社に防火管理業務も含めて委託することが多いです。

マンションの消防設備点検と報告の流れ

マンションの消防設備点検と報告の流れ

マンションの消防設備点検と報告の流れは、以下の通りです。

  1. 消防設備点検を行う事業者に連絡する
  2. 有資格者が点検を実施する
  3. 管轄の消防署に点検報告書を提出する
  4. 不具合が見つかったときは改修する

管理会社に管理を委託している場合、上記の業務は基本的に管理会社が専門業者に依頼して行います。

マンションの消防設備の点検義務に違反した場合の罰則

マンションの消防設備の点検義務に違反した場合の罰則

消防設備の点検と報告の義務は、最終的に賃貸オーナーにあります。
この章では、マンションの消防設備の点検義務に違反した場合の消防法の罰則について解説します。

消防設備の設置命令に違反した場合

建物に消防設備の設置する命令に違反した場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金の罰則があります。
消防設備の維持管理のために必要な措置を怠った場合は、30万円以下の罰金または拘留が罰則です。

点検報告義務に違反した場合

消防用設備の点検の結果を報告しない、または虚偽の報告をした場合は、30万円以下の罰金または拘留が罰則です。

住民が点検を拒否した場合

消防用設備のうち、火災報知器や避難ハッチ等に関しては、室内に入って点検することが必要です。

そのため、入居者には事前に点検日を周知し、点検は入居者の立ち会いのもとに行うことが原則です。

賃貸借契約書では、消防用設備の点検を想定して、「立ち入り」に関する条項を設けています。

一般的な賃貸借契約書における「立ち入り」の条項は、以下の通りです。

【立ち入りに関する条項】

  1. 甲(貸主)は、本物件の防火、本物件の構造の保全その他の本物件の管理上特に必要があるときは、あらかじめ乙(借主)の承諾を得て、本物件に立ち入ることができる。
  2. 乙は、正当な理由がある場合を除き、前項の規定に基づく甲の立入りを拒否することはできない。

専有部への立ち入りは、1項に記載がある通り「借主」の承諾を得る必要がある点が原則です。
消防用設備の点検のためであっても、借主の承諾をなくして勝手に入ることはできません。

一方で、2項に記載がある通り、借主は正当な理由がある場合を除き立ち入りを拒否することはできないとされています。
そのため、賃貸借契約に伴い、借主も消防設備点検に協力することが通常です。

どうしても立ち会いができない場合には、借主に事前に入室許可の了承を得て点検を行うという方法もあります。

なお、正当な理由がなく借主が立ち入りを拒否する場合には、賃貸借契約書上の借主の義務違反となり、契約解除事由に相当する可能性も出てきます。
場合によっては、契約解除を検討することも必要です。

まとめ

以上、マンションの消防設備点検について解説してきました。
延床面積が1,000平米以上の賃貸マンションには、消防用設備の点検と報告の義務があります。
消防点検には、半年に1度行う機器点検と1年に1度行う総合点検の2種類があり、全体がすべて居住用となる賃貸マンションでは3年に1回の頻度で消防署への報告が必要です。
一部に店舗が含まれる賃貸マンションでは、1年に1回の頻度で消防署への報告が必要となります。
消防用設備の点検では、専有部内に入り、借主の立ち会いが必要となる点検もあります。
火災は人命にかかわることであるため、専有部内の点検は全戸について点検することが望ましいです。

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この記事のポイント

消防用設備の点検と報告が義務化されているのはどんな建物?

消防法上、建物は「非特定防火対象物」と「特定防火対象物」の2つに大別されます。

非特定防火対象物とは、不特定多数の人が出入りする用途ではない建物のことです。

具体的には、共同住宅や学校、寺院、工場、事務所等が非特定防火対象物となります。賃貸マンションは非特定防火対象物に含まれます。

消防用設備の点検と報告が義務化されているのは、非特定防火対象物と特定防火対象物でいずれも延床面積が1,000平米以上の建物が対象です。

詳しくは「マンションの消防設備点検とは」をご覧ください。

マンションの住民が消防設備の点検を拒否した場合はどうなる?

消防用設備の点検のためであっても、マンションの住民(借主)の承諾をなくして勝手に入ることはできません。

ただしマンションの住民は正当な理由がある場合を除き、立ち入りを拒否することはできないとされています。

どうしても立ち会いができない場合には、管理者等はマンションの住民から事前に入室許可の了承を得て点検を行うという方法もあります。

なお、正当な理由がなくマンションの住民が立ち入りを拒否する場合には、賃貸借契約書上の借主の義務違反となり、契約解除事由に相当する可能性も出てきます。

詳しくは「マンションの消防設備の点検義務に違反した場合の罰則」をご覧ください。

ライターからのワンポイントアドバイス

消防点検では、借主によっては入室を頑なに拒まれてしまうこともあります。このようなときは、借主に再度協力を促すとともに、一連の経緯を記録に残しておくことが必要です。設備点検を実施できなかったことが、正当な理由なく立ち入りを拒否した借主の責任であることを明確にしておくことがポイントとなります。借主には、賃貸借契約書上、通常は防火管理に協力する義務が課せられています。借主の対応が改善しない場合には、契約の義務違反を根拠に契約解除も検討することも必要です。

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