天空率
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天空率とは?高さ制限を緩和できる制度について知っておこう

執筆者プロフィール

竹内 英二
不動産鑑定士

不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、住宅ローンアドバイザー、中小企業診断士の資格を保有。
https://grow-profit.net/

ざっくり要約!

  • 天空率制度は従来の斜線制限に加わった制度であり、斜線制限と天空率を比較して有利な方が選択可能
  • 天空率を採用した建物は「細くて高い」場合が多い

オフィス街を歩いていると、建物の上部が斜めに削られた形状の古いビルを見かけることがあります。

近年に新築されている建物において、建物の上部が斜めに削られているビルは少なくなりました。

上部が斜めに削られたビルが少なくなったのは、「天空率」のおかげです。
天空率は2003年より施行された制度であるため、比較的新しいビルは整形な形状のまま上にすっきりと伸びた建物が多くなっています。

天空率の制度とは、どのようなものなのでしょうか。
この記事では「天空率」について解説します。

そもそも天空率とは

天空率とは

天空率とは、上を見上げたときの空の広さを一定以上確保する制度のことです。

よく「都会は空が狭くて、田舎は空が広い」といわれますが、都会の空が狭いのは背の高い建物が多いことが理由です。

道幅が狭い場所で背の高い建物が連なると、高い建物が影となり道に太陽光がほとんど差し込まず、道全体が暗くなります。

通りが薄暗くなれば環境が悪化することから、高い建物が連なるような場所では、一定以上の太陽光が差し込むように規制を行うことが必要です。

高い建物は、建物上部を斜めに削ることで太陽光が差し込むようになります。
建物上部を斜めに削り、採光を確保する規制のことを「斜線制限」と呼びます。

斜線制限は採光を確保できるという点がメリットですが、建物の上部が斜めに削られてしまうという点がデメリットです。

そこで、建物上部を斜めに削らずに、斜線制限を適用したときと同等の採光を確保できるように生まれた制度が天空率となります。

天空率制度の概要

天空率制度は、2003年1月1日より施行された建築基準法に追加された制度です。

従来の斜線制限に加わった制度であり、従来の斜線制限と天空率を比較して有利な方を選択することができます。

従来の斜線制限をもとに建てる建物を「適合建築物」と呼びます。
天空率とは、適合建築物と同程度以上の空の広さを確保できるかを判断する基準のことです。

適合建築物は「建物の上部を斜めに削ることで空の広さを確保する」という考え方で設計された建物となります。

天空率では「適合建築物と同じ広さの空を確保すれば良い」という考え方であるため、建物の上部を斜めに削ることを要求していない点が特徴です。

天空率で要求されているのは地上から見上げたときの空の広さであることから、建物の脇から見える空も広さの一部となります。

幅の広い寸胴型のビルと幅の狭いスリムなビルを比較すると、スリムなビルの方が建物の脇から見える空の広さは広いです。

そのため、建物を細くすれば、地上から見える空の広さを確保できるようになります。

換言すると天空率は建物上部を斜めに削るのではなく、建物を細くすることで空の広さを確保するという制度です。

オフィス街にある建物の上部が斜めに削られた古いビルは敷地めいっぱいに建っていることが多いですが、天空率を採用したビルは建物周辺に空間を設けた形で建てられています。

建物を細くすれば空の広さを確保できるため、建物上部を削る必要がなく、整形な形状のまま建物を高くすることができます。

そのため、天空率を採用した建物は「細くて高い」場合が多いことが特徴です。

従来の斜線制限とは

天空率と代替関係にある斜線制限には、道路斜線と隣地斜線、北側斜線の3つがあります。

これらの斜線制限はなくなったわけではなく、今でも存在し、天空率と選択適用できるという関係です。

いずれの斜線制限も、道路や周囲の土地に対して、採光や日照、通風を確保する目的で定められた制度となります。

道路斜線制限とは、道路周辺の日照や衛生、安全性等を確保するため、建築物の高さが一定勾配の斜線の内側に収まるように定められた規制のことです。

隣地斜線制限とは、隣地との境界周辺の日照や採光、通風を確保し、高い建物が建つことで生じる閉塞感を防ぐ目的で定められた規制になります。

北側斜線とは、住居系の地域の日照を確保するために、建築物の北側の高さを制限した規制のことです。

これらの斜線制限は、共通して建物の上部が斜めに削られる形の制限を受ける規制となります。

なお、建物の高さ制限には、日影規制や絶対高さ制限等の規制も存在します。

天空率は、日影規制や絶対高さ制限等に対しては選択適用をすることはできません。

日影規制とは、中高層建築物が近隣の敷地に落とす影の時間を制限し、近隣の日照条件の悪化を防ぐための規制のことです。

日影規制も、結果的に建物の上部が斜めに削られる規制となります。
日影規制は、主に中高層のマンションが建っている地域に適用される規制です。

中高層のマンションでは、近年新築されているマンションでも日影規制の影響を受けて建物上部が斜めに削られている物件が多いです。

マンションで建物上部が斜めに削られている建物が多いのは、日影規制が天空率とは選択適用できないことが理由となります。

・「隣地斜線制限」に関する記事はこちら
隣地斜線制限とは?道路や水路との関係は?

天空率の計算方法と審査基準

天空率の計算方法と審査基準

この章では、天空率の計算方法について解説します。

計算式

天空率の計算は、天空図を用いて計算します。
天空図とは、複数の算定位置に想定した半球上に空の割合を映し、水平投影して作図した円のことです。

天空率を計算する際は、想定半球を水平投影した円の面積(As)と、建物を想定半球に写し水平投影した投影面の面積(Ab)の2種類を用いて計算します。

天空率の計算式は、以下の通りです。

天空率(%) = (As - Ab) ÷ As × 100

Asは、建物が建っていない状態の空の面積を指します。
Abは、建物が建っていることで見えなくなっている空の面積のことです。

AsからAbを控除した数値をAsで割っているため、天空率は建物が建った後に見えている残りの空の面積の割合を示していることになります。

測定点

天空図は、算定位置(測定点)を設け、算定位置を中心に想定半球を作って作成します。

算定位置は、道路斜線や隣地斜線、北側斜線等のそれぞれの斜線制限ごとに異なる点が特徴です。

道路斜線の場合、前面道路の敷地と反対側の境界線上に算定位置を定め、敷地が面する部分の幅を道路幅員の2分の1以下の間隔で均等に配置した点が算定位置となります。

隣地斜線の場合、住居系用途地域では隣地境界線より平行に16m外側の基準線上に8m以下の間隔で設けた点が算定位置です。

商業系用途地域では、隣地境界線より平行に12.4m外側の基準線上に6.2m以下の間隔で設けた点が算定位置となります。

北側斜線の場合、第1・2種低層住居専用地域・田園住居地域では隣地境界線から真北方向へ水平距離4m外側の基準線上に1m以内の間隔で設けた点が算定位置です。

第1・2種中高層住居専用地域では、隣地境界線から真北方向へ水平距離8m外側の基準線上に2m以内の間隔で設けた点が算定位置となります。

合否の判定の方法

天空率は、計画建築物の天空率と適合建築物の天空率を比較し、計画建築物の全ての算定位置で求めた天空率が適合建築物の天空率以上になれば採用できます。

計画建築物とは、これから天空率を使って建てる建物のことです。
適合建築物とは、従来の斜線制限をもとに建てる建物のことを指します。

審査基準

天空率の審査基準には、JCBA方式と東京方式の2種類があります。

JCBA方式とは、隣地境界線からの距離や建物の高さを基にした基準線を設定し、その基準線に対して天空率を計算する方式です。
東京方式とは、建物の窓から見える天空の範囲を基に計算する方式になります。

いずれの審査基準が採用されるかは、自治体によって異なります。

天空率制度のメリット2つ

天空率制度のメリット

天空率は、斜線制限の影響を受けやすい高層建築物で特に有効です。
この章では、天空率制度のメリットについて解説します。

1.床面積を最大化しやすい

天空率を使った場合、床面積を最大化しやすい点がメリットです。
土地には、建物の延床面積の最大値を規制する容積率と呼ばれる規制があります。

貸しビルや賃貸マンションでは、収益性を最大化するためには賃貸面積を最大化する必要があり、容積率を最大限に消化することが必要です。

従来の斜線制限では建物上部が斜めに削られることから、容積率を最大限消化できないことがよくありました。

天空率を使えば建物を上部に伸ばせることができるため、容積率を消化しやすく、床面積を最大化しやすくなります。

2.建物の形状を整形にすることができる

天空率を使うと、建物の形状を整形にすることができる点がメリットです。
上層階も下層階と同じ面積のフロアとすることができ、利用しやすい建物にすることができます。

天空率を利用する際の注意点

天空率を利用する際の注意点

天空率を利用する際は、注意点も存在します。
この章では、天空率を利用する際の注意点について解説します。

近隣住民に配慮する

天空率は建物周辺の日照等を確保できますが、結果として天空率を使用しないときよりも細くて高い建物が建つことが多いです。

高い建物は近隣住民に対して一定の圧迫感を与える恐れがあるため、建築する際は近隣住民に配慮をする必要があります。

ワンフロア当たりの床面積が狭くなる

天空率を使用すると、建物が細く高くなることが一般的です。
狭い敷地で天空率を採用すると、かなり細いビルが建つ恐れがあります。

ワンフロア当たりの床面積が狭くなり、使い勝手が悪くなる場合は、天空率を採用しないこともひとつの選択です。

まとめ

以上、天空率について解説してきました。
天空率は、従来の斜線制限と選択適用できる関係にある規制です。
天空率を利用することにより、建物上部を斜めに削らなくて済むようになり、利用しやすい整形な建物を建てることができます。

天空率は設計士が専門のソフトを使って計算するため、一般の方が簡単に算定することはできません。
自分の土地で検証された天空図を見たい方は、設計士に確認して頂ければと思います。

この記事のポイント

天空率制度とはどんな制度?

天空率制度は、2003年1月1日より施行された建築基準法に追加された制度です。
従来の斜線制限に加わった制度であり、従来の斜線制限と天空率を比較して有利な方を選択することができます。

詳しくは「そもそも天空率とは」をご覧ください。

天空率制度にはどんなメリットがある?

天空率を使った場合、床面積を最大化しやすい点がメリットです。
土地には、建物の延床面積の最大値を規制する容積率と呼ばれる規制があります。
従来の斜線制限では建物上部が斜めに削られることから、容積率を最大限消化できないことがよくありました。
天空率を使えば建物を上部に伸ばせることができるため、容積率を消化しやすく、床面積を最大化しやすくなります。

詳しくは「天空率制度のメリット2つ」をご覧ください。

ライターからのワンポイントアドバイス

天空率とは、空の広さを確保する基準のことです。空の広さは高い建物を建てるなら建物自体を細くすることで確保することができます。天空率を用いることで、建物の上部を斜めに削らなくても高い建物を建てられるようになりました。土地活用を行う場合は、天空率を使うことで賃貸床面積を最大化することもできます。特に道路斜線の影響を受けやすい前面道路の狭い土地では天空率の恩恵が大きくなるため、土地活用を行う際にうまく利用して頂ければと思います。

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