ざっくり要約!
- ふるさと納税には、自己負担2,000円を除くすべてが所得税・住民税から控除される寄付金額に上限(控除上限額)がある
- 不動産を売却して譲渡所得が生じると控除上限額が増えることがある
ふるさと納税は、寄付した自治体が用意する名産品や特産品などの返礼品を受け取れる人気の制度です。寄付金額から2,000円を差し引いた部分は、一定額を上限として所得税と住民税から控除されます。
不動産の売却益が生じると、ふるさと納税がお得になるといわれています。これは、年間の所得が増えることで税金から控除される寄付金額の上限が高くなる可能性があるためです。
この記事では、不動産売却で利益が出るとふるさと納税の控除上限額が増える仕組みや計算方法などを解説します。
記事サマリー
不動産売却の譲渡所得とは
譲渡所得は、土地や建物などの売却により得られた利益のことです。不動産の売却価格から、購入時に支払った費用(取得費)と売却時の経費(譲渡費用)を差し引いて求めます。
譲渡所得は、所得税や住民税の課税対象です。2037年(令和19年)までは復興特別所得税も課税されます。これらの税金はまとめて「譲渡所得税」と呼ばれます。
不動産を売却して譲渡所得が発生した場合、翌年に確定申告が必要です。
| ・「譲渡所得」に関する記事はこちら 短期譲渡所得・長期譲渡所得の基礎知識!不動産売却で気をつけるべき点も 譲渡所得の確定申告はいくらからするべき? 計算方法も詳しく解説 |
不動産売却後のふるさと納税がお得な理由

ふるさと納税は、応援したい自治体や生まれ故郷などに寄付できる制度です。ふるさと納税をすると、寄付額のうち2,000円を超える部分が所得税や住民税から控除されます。
また、実質2,000円の自己負担で寄付をした自治体が用意する特産品や名産品などの返礼品を受け取れることもふるさと納税の魅力です。
ここでは、不動産売却後のふるさと納税がお得といわれる理由を解説します。
譲渡所得は分離課税
不動産の売却で生じた譲渡所得にかかる税金は「分離課税」で計算されます。分離課税は、給与所得や事業所得などの他の所得とは分けて税額を計算する方式です。
給与所得や事業所得などは「総合課税」という課税方式で税金が計算されます。
総合課税は、1年間で生じた対象所得の合計金額が課税対象となる方式です。累進課税のため、課税対象となる所得金額の合計が高いほど税率も上がっていきます。
一方、譲渡所得は総合課税の所得には合算せず、個別に税率をかけて所得税と住民税の税額を計算します。
譲渡所得が生じると課税対象となる所得と所得税・住民税は増えますが、分離課税のため給与所得などに適用される税率が上昇することはありません。
| ・「分離課税・総合課税」に関する記事はこちら 不動産の売却益は分離課税・総合課税どっち? |
ふるさと納税の上限額は所得で決まる
ふるさと納税には、自己負担分2,000円を差し引いた部分のすべてが所得税や住民税から控除される寄付金額に上限(控除上限額)が設けられています。
控除上限額は、主に寄付をする人の所得に応じて決まります。所得が高い人ほど、ふるさと納税の控除上限額は増える仕組みです。
不動産の売却により譲渡所得が発生すると年間の所得が増え、所得税や住民税が増えるため、ふるさと納税の控除上限額は上昇します。控除上限額が上がると、高級食材や家電などより高額な返礼品を用意する自治体にも寄付しやすくなるでしょう。
ただし、マイホームを売却したときに「3,000万円の特別控除」などの特例を適用したことで課税対象となる譲渡所得が0円になる場合、ふるさと納税の控除上限額は増えません。
| ・「3,000万円特別控除」に関する記事はこちら マンション売却で活用可能! 3,000万円特別控除とは? |
不動産売却の譲渡所得の計算方法
続いて、不動産売却時の譲渡所得の計算方法をみていきましょう。
譲渡所得の計算式
譲渡所得は「課税譲渡所得金額=総収入金額−(取得費+譲渡費用)-特別控除」で計算します。それぞれの項目に該当するものは以下の通りです。
| 内訳 | |
| 総収入金額 | ・不動産の売却金額 ・固定資産税・都市計画税の精算金 |
| 取得費 | ・不動産の購入金額 ・購入時の諸費用(仲介手数料・印紙税・登録免許税・司法書士報酬・不動産取得税など) |
| 譲渡費用 | ・売却時の諸費用(仲介手数料・印紙税・登録免許税・司法書士報酬など) |
| 特別控除 | ・マイホーム(居住用財産)を売却した場合の3,000万円の特別控除の特例(3,000万円特別控除) ・公共事業などのために土地や建物を売却した場合の5,000万円の特別控除の特例 など |
不動産を購入した当時の売買契約書などが残っておらず取得費が不明な場合は、総収入金額の5%を「概算取得費」として課税譲渡所得金額を計算することができます。
譲渡所得税の計算方法と税率
譲渡所得税は「課税譲渡所得金額×税率」で計算します。税率は、不動産を売却した年の1月1日時点の所有期間に応じて決まります。
| 所有期間 | 税率 |
| 5年以下(短期譲渡所得) | 39.63%(住民税9%・所得税30%・復興特別所得税0.63%) |
| 5年超(長期譲渡所得) | 20.315%(住民税5%・所得税15%・復興特別所得税0.315%) |
ふるさと納税の上限額の計算方法

ふるさと納税の控除上限額は以下の計算式で求められます。
- 住民税所得割額×20%÷(90%−所得税率×1.021)+2,000円
上記計算式にある「住民税所得割額」と「所得税率」の決まり方を解説します。
住民税所得割額の計算方法
住民税所得割額とは、住民税のうち前年の所得に応じて課税される部分のことです。
不動産の売却益が生じた場合、ふるさと納税の控除上限額を計算するときは「総合課税の住民税所得割額」と「分離課税の住民税」を合算します。
それぞれの計算式は以下の通りです。
- 総合課税の住民税所得割額:(合計所得金額−所得控除額)×税率−税額控除額等
分離課税の住民税:「課税譲渡所得金額×住民税の税率」
総合課税の住民税所得割額の税率は原則10%です。分離課税の住民税の税率は、売却時の所有期間が5年以下の場合は9%、5年超は5%です。
総合課税の住民税所得割額を計算する際の所得控除と税額控除の例は以下をご覧ください。
| 所得控除・税額控除の例 | |
| 所得控除 | ・基礎控除:合計所得金額が2,500万円以下の方が受けられる所得控除 ・社会保険料控除:健康保険や厚生年金などの保険料を支払った人が受けられる所得控除 ・配偶者控除:一定の要件を満たす配偶者がいる場合に受けられる所得控除 ・生命保険料控除:生命保険や医療保険などの保険料を支払った人が受けられる所得控除 |
| 税額控除 | ・調整控除:基礎控除や配偶者控除など所得税と住民税で控除額が異なる所得控除の差額を調整するための税額控除 ・住宅ローン控除:住宅ローンを組んだ人が所定の要件を満たすと受けられる税額控除 |
給与所得者の場合、総合課税の住民税所得割額は、毎年5〜6月ごろに勤務先から配布される住民税の決定通知書で確認できます。
所得税率は総合課税の税率
控除上限額の計算式にある所得税率は、給与所得や事業所得など総合課税の課税所得金額に応じて決まります。
課税所得金額の計算式は「合計所得金額−所得控除」であり、税率は以下の通りです。
| 課税される所得金額 | 税率 |
| 1,000円から1,949,000円まで | 5% |
| 1,950,000円から3,299,000円まで | 10% |
| 3,300,000円から6,949,000円まで | 20% |
| 6,950,000円から8,999,000円まで | 23% |
| 9,000,000円から17,999,000円まで | 33% |
| 18,000,000円から39,999,000円まで | 40% |
| 40,000,000円以上 | 45% |
給与所得の金額は、勤務先から配布される源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」という欄に記載されています。
課税所得金額は、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」から「所得控除の額の合計額」を差し引くと算出できます。
不動産売却後のふるさと納税はどれだけお得?
譲渡所得がある場合とない場合でふるさと納税の控除上限額はいくら変わるのかをシミュレーションで確認してみましょう。条件は以下の通りです。
- 給与所得:436万円(年収600万円)
- 基礎控除額:所得税48万円、住民税43万円
- 社会保険料控除:85万円
- 住民税所得割額の調整控除:2,500円
- 不動産の売却価格:4,000万円
- 取得費:3,200万円
- 譲渡費用:500万円
- 売却時の所有期間:8年
- 配偶者や子どもなどの扶養家族:なし
今回のシミュレーションでは、投資用不動産の売却を想定し、3,000万円特別控除を始めとした特別控除は受けられないものとします。
試算結果は以下の通りです。
譲渡所得がない場合の控除上限額
まず、譲渡所得がない場合の控除上限額を計算します。最初に、所得税の課税総所得金額を求めます。
- 課税所得金額:給与所得436万円−基礎控除48万円−社会保険料控除85万円
- =303万円
課税所得金額が303万円の場合、所得税率は10%です。
次に住民税の所得割額を計算します。
- 住民税の課税所得金額:給与所得436万円−基礎控除43万円−社会保険料控除85万円=308万円
- 所得割額:合計所得金額308万円×税率10%-調整控除2,500円
- =30万5,500円
上記をもとに、ふるさと納税の控除上限額を求めると結果は以下のとおりです。
- 控除上限額:住民税所得割額×20%÷(90%−所得税率×1.021)+2,000円
- =30万5,500円×20%÷(90%−10%×1.021)+2,000円
- =7万8,576円
よって、譲渡所得がない場合の控除上限額は7万8,576円です。
譲渡所得がある場合の控除上限金額
続いて譲渡所得がある場合の控除上限額を計算します。不動産の売却により生じた課税譲渡所得金額は以下の通りです。
- 課税譲渡所得金額:総収入金額−(取得費+譲渡費用)-特別控除
- =売却価格4,000万円−(取得費3,200万円+譲渡費用500万円) =300万円
売却した不動産の所有期間は8年であるため、上記金額は長期譲渡所得であり、住民税率は5%となります。
譲渡所得がある場合の住民税所得割額は以下の通りです。
- 長期譲渡所得の住民税:300万円×5%
- =15万円
- 住民税の課税所得金額:総合課税分30万5,500円+分離課税分15万円
- =45万5,500円
上記金額を用いて控除上限額を求めると、計算結果は次のようになります。
- 控除上限額:住民税所得割額×20%÷(90%−所得税率×1.021)+2,000円
- =45万5,500円×20%÷(90%-10%×1.021)+2,000円 =11万6,174円
譲渡所得が生じた場合の控除上限額は約11万6,174円と算出されました。
譲渡所得がない場合の上限額は7万8,576円のため、不動産の売却により控除上限額は3万7,598円増える結果となりました。
まとめ
不動産を売却して譲渡所得が発生すると、年間の所得が増えるため、ふるさと納税の控除上限額も引き上げられる可能性があります。控除上限額が増えると、寄付をする自治体の選択肢が広がり、より魅力的な返礼品を得られる可能性があります。
控除上限額を超える部分は控除の対象になりません。不動産を売却したときは譲渡所得や控除上限額を正しく計算したうえで寄付をする自治体を選ぶと良いでしょう。
この記事のポイント
- 不動産を売却した時の譲渡所得とはなんですか?
譲渡所得は、土地や建物などの売却により得られた利益です。不動産の売却価格から、購入時に支払った費用(取得費)と売却時の経費(譲渡費用)を差し引いて求めます。
詳しくは「不動産売却の譲渡所得とは」をご覧ください。
- 不動産を売却した後、ふるさと納税がお得になるのですか?
ふるさと納税は、応援したい自治体や生まれ故郷などに寄付できる制度です。実質2,000円の自己負担で寄付をした自治体が用意する特産品や名産品などの返礼品を受け取れることもふるさと納税の魅力です。
「不動産売却後のふるさと納税がお得な理由」にて不動産売却後のふるさと納税がお得といわれる理由を解説します。
- 譲渡所得があった場合のふるさと納税の上限額はどのくらいになりますか?
譲渡所得がある場合とない場合でふるさと納税の控除上限額はいくら変わるのかをシミュレーションで確認してみましょう。
「不動産売却後のふるさと納税はどれだけお得?」」の記事で詳しく解説しています。
ライターからのワンポイントアドバイス
会社員や公務員などは、ふるさと納税のポータルサイトにあるシミュレーションツールで控除上限額を試算できます。試算の際は、譲渡所得または株式譲渡益(上場)の入力欄があるシミュレーションツールを使用すると良いでしょう。
また、年収や所得控除の入力も求められるため、前年度の源泉徴収票を準備しましょう。前年と年収が変わる可能性がある場合、今年の年収見込額を計算しておくことが大切です。控除上限額をより正確に知りたい方やシミュレーションツールでの試算が難しい自営業者などは、税理士や最寄りの税務署などに相談することをおすすめします。

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