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専門家コラム

建築費高騰時代の不動産投資戦略

専門家コラムVol.57|イメージ
吉崎 誠二

COLUMNIST PROFILE

吉崎 誠二

不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

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昨今の不動産市場において、建築費の高騰は大きな関心事の一つとなっています。「もう少し待てば建築費も下落に転じるのではないか」と期待する方もいるかもしれません。
しかし、現在の建築費高騰は、2022~2023年頃のウッドショックのような一時的な資材不足によるものとは性質が異なります。複数の要因が重なり合って発生しているため、その背景を正しく理解することが重要です。
今回は、建築費高騰の要因を整理しながら、その背景について解説していきます。

目次
建築費の現状
建築費の高騰の要因
建築費高騰を乗り越える投資家の解決策
まとめ

建築費の現状

東京圏の転入超過数の推移
持ち家率の推移
(総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」より作成)

上のグラフは、実際の建築市場における取引価格の変動を示す指標として、国土交通省が公表している「建築費デフレーター」です。この指標を見ると、2015年を100とした場合の建築費は上昇傾向が続いており、直近では131.7まで上昇しています。これは、約10年前であれば2億円で建築できた賃貸住宅が、現在では約2億6,300万円の建築費を要する水準になっていることを意味します。インフレによる貨幣価値の変動を考慮したとしても、建築コストが大きく上昇していることが分かります。この建築費の高騰は、不動産投資市場にも直接的な影響を与えています。建築コストの上昇に伴い物件価格は押し上げられていますが、入居者から得られる賃料を同じペースで引き上げることは容易ではありません。
その結果、新築一棟マンションや新築アパートへの投資においては、物件価格の上昇に対して賃料の伸びが追いつかず、「期待する利回りを確保しにくい」といった状況が生じています。

建築費の高騰の要因

この建築費の高騰の要因としていくつか考えられます。


①建設業界の労働環境変化と慢性的な人手不足

少子高齢化に伴う職人(技能労働者)の不足により、建設現場の労務費(人件費)は年々上昇しています。
さらに、この傾向に拍車をかけたのが、労働環境の改善を目的として導入された時間外労働の上限規制、いわゆる「2024年問題」です。労働時間の適正化が進む一方で、従来と同じ人員体制では工期が長期化しやすくなっています。その結果、人員の確保や工程調整に伴う追加コストが発生し、建築費全体を押し上げる要因となっています。こうした状況は、建設需要に対して労働力の供給が追いついていない状態を示しているといえるでしょう。



②省エネ基準適合義務化による仕様の底上げ

制度面の変化も無視できません。近年では、新築住宅・建築物に対する「省エネ基準への適合」が全面的に義務化されました。これにより、一定水準以上の断熱性能を備えた建材や複層ガラス、高効率な空調設備の導入が求められるようになっています。その結果、同じ規模の建物を建築する場合でも、設計や資材の段階から従来より高い性能が求められ、建築コストを押し上げる要因の一つとなっています。


③地政学リスクの長期化と円安による建材・エネルギー高

近年では、世界的な地政学リスクの高まりにも引き続き注目する必要があります。原油をはじめとするエネルギー価格の高止まりや資材不足に加え、建材を製造するコストだけでなく、現場へ輸送するための物流コストも大幅に上昇しています。さらに、長期化する円安が追い打ちをかけており、海外からの輸入に依存する鉄鋼やコンクリート、住宅設備機器などの原材料費は軒並み上昇しています。

建築費高騰を乗り越える投資家の解決策

建築費デフレーターが示すとおり、当面は建築費の大幅な下落を期待しにくい状況が続いています。そのため、投資家に求められるのは、建築費の高止まりを前提とした投資戦略へシフトしていくことだといえるでしょう。


戦略①:「中古物件×戦略的リノベーション」へのシフト

新築物件の利回りが圧迫されるなか、現在有力な選択肢の一つとなっているのが、「優良な中古物件を取得し、リノベーションによってバリューアップを図る」という手法です。既存ストックを活用するため、建築費高騰の影響を受けるのは主に内装や設備の改修費用に限られます。その結果、新築一棟を建築する場合と比較して、初期投資額(イニシャルコスト)を大幅に抑えることが可能となります。
また、入居者が重視する水回りやデザイン性といった要素に重点的に投資することで、新築に劣らないリーシング(入居付け)力を確保しながら、中古物件ならではの価格優位性、すなわち相対的に高い利回りを維持することにもつながります。


戦略②:建物から「立地(資産価値)」への集中投資

建築費や物件価格が高騰している今だからこそ、「建物の新しさ」ではなく、「土地の力」に着目した投資戦略が重要になります。
建物は、どれだけ高性能な仕様で建築したとしても、経年とともに価値が減少していきます。一方で、利便性の高い立地や希少性のある土地は、長期的に価値が維持されやすい傾向があります。
具体的には、駅近物件や将来的な再開発が予定されているエリアの中古物件などが有力な選択肢となります。建物にかかる初期コストを抑えながら、立地の優位性を活かして長期的な賃貸需要を確保する戦略です。


戦略③:「出口戦略(売却)」の優位性を活かす

現在の建築費高騰は、将来の出口戦略においてプラスに作用する可能性があります。建築費が高止まりしている環境下では、デベロッパーによる新規供給が従来ほど容易ではなくなります。その結果、数年後から十数年後に物件を売却する局面では、市場における競合となる新築物件の供給が限定される可能性があります。
つまり、現在のような局面で割安な中古物件を取得し、リノベーションなどによって付加価値を高めておくことで、将来の売却時に価格が下がりにくくなる可能性があります。その結果、安定した売却環境のもとで、キャピタルゲイン(売却益)の獲得や円滑な出口戦略の実現につながることも期待できます。

まとめ

今回は、建築費の高騰について取り上げました。
建築費上昇の背景には、人手不足や労務費の上昇、省エネ基準の義務化、資材価格の高騰、円安など、複数の要因が存在しています。これらはいずれも一時的な要因とは考えにくく、建築費が短期間で大幅に下落する可能性は低いと考えられます。
不動産投資を行ううえでは、こうした建築費高騰の背景を正しく理解し、その環境を前提とした投資戦略を構築していくことが重要になるでしょう。

ご留意事項
不動産投資はリスク(不確実性)を含む商品であり、投資元本が保証されているものではなく、元本を上回る損失が発生する可能性がございます。
本マーケットレポート に掲載されている指標(例:利回り、賃料、不動産価格、REIT指数、金利など)は、
不動産市場や金融市場の影響を受ける変動リスクを含むものであり、これらの変動が原因で損失が生じる恐れがあります。
投資をする際はお客様ご自身でご判断ください。当社は一切の責任を負いません。
本マーケットレポートに掲載されている情報は、2026年6⽉16⽇時点公表分です。
各指標は今後更新される予定があります。
本マーケットレポートに掲載した記事の無断複製・無断転載を禁じます。
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