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専門家コラム

「月額募集家賃」と「CPI民営家賃」から見る賃貸市場の高まり

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吉崎 誠二

COLUMNIST PROFILE

吉崎 誠二

不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

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ご承知のとおり、近年は住宅賃料の上昇が顕著となっています。区分マンションを含む不動産投資において、家賃動向を正確に把握することは極めて重要な要素のひとつです。しかし、住宅賃料に関する公的データは多くはなく、それぞれ算出方法や対象範囲、特徴が異なります。
そこで今回は、東京都の賃料に焦点を当て、「月額募集家賃」と「CPI民営家賃」という2つの指標を取り上げ、これらのデータをもとに市場の全体像をより深く読み解きながら、近年の賃料動向を解説します。

目次
月額募集家賃とCPI民営家賃の特性
東京都の募集家賃指数推移
東京都区部の募集家賃指数と都区部CPI民営家賃の推計値の比較
まとめ

月額募集家賃とCPI民営家賃の特性

「月額募集家賃」とは、簡単に言えば、賃貸広告などに掲載されている家賃のことです。つまり、「貸主がいくらで貸したいか」を示す“希望価格”のようなものです。各時点で市場に出回っている賃貸住宅の動向や状況を反映していることから、「フローベース」の家賃と呼ばれます。募集段階の家賃であるため、基本的には「新規賃料」を指します。フローベースの家賃は、短期的な需給変動や投資家・貸主の心理を敏感に反映する傾向があるため、市場の先行指標として位置づけられます。
一方、総務省統計局が毎月公表している消費者物価指数(CPI)の構成項目のひとつである「CPI民営家賃」は、実際に賃貸住宅に居住している人が支払っている家賃を示す指標です。こちらは新規賃料だけでなく、継続して入居している世帯の家賃(継続家賃)も含まれることから、「ストックベース」の家賃に分類されます。
ストックベースの家賃は、継続家賃の影響を強く受けるため、短期的な市況変化を反映しにくい一方、実際の生活実感に近い動きを示すのが特徴です。そのため、長期的なトレンドを把握する際の指標として用いられることが一般的です。

東京都の募集家賃指数推移

このグラフは、東京都の募集家賃指数を示したものです。2016年を基準(2016年=100)とすると、2025年4月時点では東京都全体が117.1、都区部(23区)が119.3、23区以外が109.7となりました。過去10年間、東京都全体の募集家賃指数は堅調に上昇を続けており、その中でも都区部(23区)の上昇が全体の賃料水準を押し上げています。特に都区部では、2016年比で約1.193倍の上昇となり、家賃10万円の物件であれば現在はおよそ12万円程度に上昇した計算です。2021年頃のコロナ禍では一時的に不安定な動きが見られたものの、東京都の募集家賃はここ数年で再び急速に伸びを示しています。

東京都の募集家賃指数(2016年=100)
持ち家率の推移
(内閣府「令和7年度 年次経済財政報告」より作成) ※募集家賃指数はヘドニック法により作成

東京都区部の募集家賃指数と都区部CPI民営家賃の推計値の比較

続いて、このグラフは東京都区部における募集家賃指数(2020年=100)と、都区部のCPI民営家賃の推計値を比較したものです。最新のCPI民営家賃の推計値は102.4となっています。
なお、今回用いたCPI民営家賃の推計値とは、募集家賃指数をストックベースに換算し、さらにCPI民営家賃に反映されていない「経年劣化に伴う実質的なサービス低下分」を調整した数値です。これにより、実際の住宅ストックの状況をより正確に反映した指標として算出されたものとなっています。
このグラフを見ると、CPIの上昇幅はやや拡大傾向にあるものの、募集家賃指数とは必ずしも同じ動きを示していないことが分かります。その要因のひとつとして、契約更新時における賃料(=継続家賃)の上昇率が、新規契約時の賃料(=新規賃料)に比べて低いことが挙げられます。これは、日本の住宅賃料に見られる「価格硬直性」の表れと言えるでしょう。「価格硬直性」とは、市場の需要・供給の変化に対して価格がすぐに反応せず、変化が生じにくい性質を指します。日本ではこの傾向が特に強く、諸外国と比べても賃料が上がりにくい構造になっています。
もっとも、月額募集家賃が堅調に上昇しているのに対し、CPI民営家賃も一定の「価格硬直性」を持ちながら、ここ数年はプラスに転じ上昇を示しています。これは、物価上昇の波がついに「動きにくい」とされてきた我が国の住宅賃料にも反映され始めたことを意味していると言えるでしょう。

東京都区部の募集家賃指数(2020年=100)と都区部CPI民営家賃の推計値
東京都区部の募集家賃指数(2020年=100)と都区部CPI民営家賃の推計値
(内閣府「令和7年度 年次経済財政報告」より作成) ※募集家賃はヘドニック法により換算

まとめ

今回は、月額募集家賃とCPI民営家賃に着目し、東京都の賃料動向について解説しました。両者はそれぞれ性質が異なりますが、いずれも賃貸市場の動向を把握するうえで有用な指標です。
このほかにも、不動産投資を行う際の参考となる家賃関連データは多岐にわたります。複数のデータを組み合わせて分析し、市場への理解を深めていくことで、より適切で精度の高い投資判断につなげることができるでしょう。

ご留意事項
不動産投資はリスク(不確実性)を含む商品であり、投資元本が保証されているものではなく、元本を上回る損失が発生する可能性がございます。
本マーケットレポート に掲載されている指標(例:利回り、賃料、不動産価格、REIT指数、金利など)は、
不動産市場や金融市場の影響を受ける変動リスクを含むものであり、これらの変動が原因で損失が生じる恐れがあります。
投資をする際はお客様ご自身でご判断ください。当社は一切の責任を負いません。
本マーケットレポートに掲載されている情報は、2025年11⽉16⽇時点公表分です。
各指標は今後更新される予定があります。
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