住宅セーフティネット法 改正
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住宅セーフティネット法改正! 3つのポイントと期待される効果

執筆者プロフィール

亀梨奈美

株式会社realwave代表取締役。大手不動産会社退社後、不動産ジャーナリストとして独立。
2020年には「わかりにくい不動産を初心者にもわかりやすく」をモットーに、不動産を“伝える”ことに特化した株式会社realwaveを設立。
住宅専門全国紙の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

高齢化や単身世帯の増加、持ち家比率の低下などを背景に、賃貸住宅を必要とする住宅確保要配慮者への住まいの提供が社会課題となっています。

こうした状況を受け2025年10月1日、住宅セーフティネット法の改正法が施行され、オーナーが安心して要配慮者に賃貸できる仕組みや暮らしの支援を含めた包括的なサポート体制が整備されました。本記事では、改正の3つのポイントと期待される効果について解説します。

住宅セーフティネット法とは?

住宅セーフティネット法とは、2017年に施行された住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給を促進するための制度です。「住宅確保要配慮者」は、基本的に高齢者・低額所得者・障害者・被災者・子育て世帯と定められています。

賃貸住宅のオーナーは「セーフティネット登録住宅」として都道府県などの自治体に賃貸住宅を登録し、自治体は登録住宅の情報を住宅確保要配慮者に広く提供します。登録住宅は、自治体から改修費や家賃を安く抑えるための補助などが受けられます。

2024年6月末時点で全国の登録住宅戸数は90万戸を超えていますが、高齢化や単身世帯の増加、持ち家比率の低下などもあって、今後、登録住宅の需要はますます高まっていくものと考えられます。とくに、単身高齢者世帯は2020年時点で約738万世帯でしたが、2030年には900万世帯に迫る見通しとなっています。

こうした状況を踏まえ、誰もが安心して賃貸住宅に居住できる社会を目指し、2025年10月1日に改正法が施行されました。

セーフティネット登録住宅 戸数
出典:国土交通省「セーフティネット登録住宅の登録戸数

改正住宅セーフティネット法 3つのポイント

住宅セーフティネット法の主な改正点は次の3つです。

1.市場環境の整備

住宅確保要配慮者 入居拒否
出典:国土交通省「改正法概要資料

住宅確保要配慮者の入居に対し、多くのオーナーは拒否感を示しているのが現状です。2021年度の国土交通省による調査によれば、高齢者の入居に対して約7割のオーナーが拒否感を示しているといいます。同様に、障害者や低額所得者、ひとり親世帯などの入居に対しても拒否感を示すオーナーが少なくありません。

高齢者の入居が敬遠される主な理由は、居室内での孤独死などに対する不安です。加えて、入居者が亡くなってしまった際に賃借権が相続人に承継されたり、残置物が残っていたりすると、一定期間、新たな入居者を募れず、オーナーの利益を損なうおそれがあります。

こうした高齢者の入居リスクを低減するため、改正法では、入居者が亡くなった際に賃貸借契約が終了する「終身建物賃貸借」の利用促進と居住支援法人による残置物処理の推進などを図っています。

また、新たに家賃債務保証業者の認定制度を創設し、要配慮者への保証リスクを低減するなど市場環境を整備しています。家賃の滞納は、要配慮者の入居にあたってオーナーが危惧する課題のひとつとなりますが、改正法では生活保護受給者が入居する場合は家賃の代理納付を原則化し、入居する要配慮者は原則、認定保証業者が家賃債務保証を引き受けるため、オーナーは安心して要配慮者に住宅を貸し出しやすくなります。

2.居住サポート住宅の認定制度を創設

住まいを確保するだけでは、高齢者などの暮らしをサポートすることはできません。改正法では、入居した「後」の暮らしをサポートするため、要配慮者の安否確認や適切な福祉サービスへとつなぐ「居住サポート住宅」の認定制度が創設されました。

福祉サービスにつなぐのは居住支援法人等で、高齢者に対してだけでなく、ひとり親に対する母子・父子自立支援員による相談や助言、障害者に対するホームヘルプや就業支援なども含まれます。

従前は「オーナーが拒まないこと」、そして「その物件情報を自治体が公表すること」で要配慮者に住宅を供給することが同制度の大枠でしたが、改正後は、オーナーと居住支援法人が連携して入居者を見守る環境が加えて整備されることになります。

3.居住支援体制の強化

また、改正法では要配慮者の相談から入居前・入居中・退去時まで一気通貫の支援をするため、市区町村による居住支援協議会の設置を努力義務化しました。居住支援協議会は不動産関係団体・居住支援法人・都道府県や市区町村の住宅部局、福祉部局で構成され、総合的・包括的に居住支援体制の整備を推進します。今回の改正で、社会福祉協議会・福祉関係団体が居住支援法人のひとつとして明確化されました。

居住支援協議会は2025年6月末時点で全国に163協議会が設立されており、今後さらに増加していくものと見られます。「住まい」と「暮らし」は切っても切り離せないことから、協議会体制の整備によって要配慮者への支援の円滑化が見込まれます。

空き家活用・流通の促進にも期待される

住宅セーフティネット法 空き家
  • 賃貸借契約が相続されない仕組み
  • 残置物処理に困らない仕組み
  • 家賃の滞納に困らない仕組み

住宅セーフティネットの改正によって上記の仕組みが創設・推進されることで、賃貸住宅のオーナーはより要配慮者に住まいを提供しやすく、要配慮者はより借りやすくなります。

加えて、福祉分野と住宅分野が融合することで、要配慮者の住まいに関する課題を包括的に解消しやすくなります。要配慮者は公営住宅以外の住まいの選択肢が生まれやすくなり、民間賃貸の空き家活用の促進にも期待されます。

空き家数 空き家率 推移
出典:総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果

全国の約900万戸の空き家のうち、賃貸用の空き家は約443万戸と半数近くを占めています。

セーフティネット登録住宅は、従前よりバリアフリーや耐震、子育て対応などの改修に際して補助を受けられます。補助制度を活用すれば、空き家の再生にかかるコストを抑えつつ資産を有効活用できます。加えて、今回の改正で「住むまで」だけでなく「住んでから」も要配慮者の入居をサポートしてもらえるようになったことで、オーナーは空き家の活用およびセーフティネット制度への登録に前向きになりやすくなるものと考えられます。

まとめ

住宅セーフティネット法の改正により、要配慮者の入居をめぐる課題に対応する新たな仕組みが導入されました。終身建物賃貸借の促進や残置物処理の支援、家賃保証の制度化などによって、オーナーは安心して要配慮者に住まいを提供しやすくなります。また、居住サポート住宅の認定や支援協議会の設置によって、福祉と住宅の連携が一層強化されます。結果として、空き家活用の促進や多様な住まいの選択肢が広がり、誰もが安心して暮らせる社会の実現が期待されます。

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