更新日:  

相続放棄をすべき場合とは?全員が相続放棄する場合の注意点もあわせて解説

亡くなった方(被相続人と呼びます)の相続財産を引き継ぎたくない場合には、相続放棄という選択肢があります。

相続財産には借金なども含まれるため、返済の負担を負いたくない場合などに相続放棄を検討することが多いでしょう。

そこで、相続放棄とは何か、相続放棄すべきケースや相続放棄の手続きについて詳しく説明します。

なお、実際に相続放棄をすべきか迷う場合には、司法書士や弁護士など法律の専門家に早めに相談するとよいでしょう。

相続放棄は被相続人の財産を一切相続しないこと

相続放棄とは、被相続人の財産を相続する権利を放棄することをいいます。相続放棄をすると、相続できる財産の一切を受け取ることができません。
相続の対象となる財産は、預貯金や不動産といったプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も相続の対象となり、返済の義務が生じます。
被相続人の財産が負債などマイナス財産が上回っているようなケースでは、返済の義務がなくなるため相続放棄をする方は多いです。

一方で、プラスの財産とマイナスの財産のバランスが不透明であるケースでは、必ずしも相続放棄を選択しないこともあります。

限定承認とは

相続が発生した場合における相続人の選択肢としては、通常どおり相続財産の一切を承継する「単純承認」や「相続放棄」のほか、「限定承認」と呼ばれるものがあります。

限定承認とは、相続人が相続財産のうち、プラスの財産の範囲内で借金などマイナスの財産を相続できます。

例えば、A棟500万円、B棟300万円、C棟400万円の資産価値がある3つの不動産に加え、1,500万円の負債が相続対象である場合、限定承認であれば、3つの棟1,200万円分の不動産と負債を相続し、残り300万円の負債は相続対象になりません。

つまり、限定承認をすれば相続財産の範囲内で負債が清算されるため、相続人が自己の財産により返済をする必要がないのです。

このように説明すると、限定承認は相続人にとってメリットの大きい制度のようにみえます。

しかし、実際には相続放棄と比べて限定承認をするための手続きが非常に煩雑であることや、限定承認のために相続人全員の同意が必要とされていることなどがハードルとなり、あまり利用されていません。

ただし、債務の圧縮はしたいが、一方でどうしても残したい財産があるというケースでは、限定承認を検討する余地があります。

相続放棄のメリットとデメリット

相続放棄をする前に、メリットとデメリットを理解しておく必要があります。

メリット

相続放棄の最大のメリットは、相続人がマイナスの財産を負担する必要がなくなることです。

特に、亡くなった方が複数の借入先から借金を繰り返し、債務額が膨大なものになる可能性があるときには、相続放棄をするメリットは大きいといえるでしょう。

このほか、親族間の相続争いに巻き込まれたくない場合に、あえて相続放棄を選択することもあります。

デメリット

相続放棄のデメリットは、亡くなった方のプラスの財産も引き継げない点にあります。

したがって、相続放棄をすると、1億円の財産があることがあとから判明したとしても1円も相続できないことになります。

また、相続人が相続放棄してほかに相続する人が存在しない場合には、財産は国庫に帰属します。

このため、亡くなった方が大切にしていた形見であっても宝石など財産的価値があるものであれば手放す必要がありますし、先祖代々の土地や家宝なども残すことができません。

相続放棄の注意点

相続放棄をする場合には、いくつか注意点があります。

相続放棄ができる期間は3ヶ月

相続放棄できるのは「自分のために相続があったことを知ったとき」から3ヶ月以内という期限があります。この期間を「熟慮期間」と呼びます。

なお、限定承認をする場合も同じ期間内に手続きをする必要があります。

したがって、3ヶ月の熟慮期間内に亡くなった方の財産状況を調査し、相続放棄をするか否かの判断をする必要があります。身内が亡くなると相続人はさまざまな手続きに追われます。このため、気づいたら熟慮期間が過ぎていて相続放棄ができないという状況にならないよう注意が必要です。

なお、やむを得ない事情がある場合には、3ヶ月の熟慮期間内に家庭裁判所に申し立てることで期間の延長が認められることがあります。

例えば、亡くなった人が資産家で相続財産の全体を調査するのに時間を要するなどやむを得ない事情がある場合、3ヶ月の熟慮期間内に家庭裁判所に申し立てることを条件に期間の延長が認められます。

ここで注意したいのは、延長の申立て自体は熟慮期間内に行わないといけない点です。したがって、いずれにしても相続開始後早めに相続財産の調査に着手することが大切です。

熟慮期間内に相続放棄をせず、また延長の申立てもしなかった場合、その後に相続放棄をすることは困難です。

ただし、亡くなった人にめぼしい相続財産がなく、遺産分割協議や相続財産の処分などをまったくしていなかった場合において、熟慮期間が経過した後に多額の借金が発覚したというケースでは、例外的に熟慮期間経過後の相続放棄が認められることがあります。

この場合、熟慮期間経過後の相続放棄をすることになった経緯を裁判所に説明する必要があり、最終的に相続放棄が認められるか否かは裁判所の判断に委ねられます。

なお、裁判所が相続放棄を認めたとしても、債権者が相続放棄の無効を主張して訴訟提起されることがあります。したがって、熟慮期間経過後の相続放棄では、債権者が訴訟提起をする可能性があるかどうかも慎重に見極めて行う必要があります。

また、借金の存在を知らなかった場合でも、相続人同士で遺産分割協議をしていたり、預貯金など相続財産を費消したりしたのであれば相続放棄は認められません。

以上みてきたように、熟慮期間と呼ばれる3ヶ月の期間は非常に厳格に捉えられているといえます。このため、相続放棄をするか否かの判断は基本的に3ヶ月の熟慮期間内にすることが重要です。

相続放棄ができないことがある

相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合や、相続人が相続財産の全部または一部を隠したり消費したりした場合には、相続人は相続財産の一切を引き継ぐ単純承認を選択したものとして扱われます。この結果、相続放棄ができなくなります。

例えば、亡くなった方が契約していた個人年金保険などの積立保険の解約返戻金を相続人が受け取って自己のために使った場合には、相続放棄ができなくなる可能性があるため注意が必要です。

全員が相続放棄する場合は相続財産管理人が清算する

相続人全員が相続放棄をすると、相続人が不在となります。相続人が不在となった場合は、特別縁故者といわれる、法定相続人ではないものの亡くなった人の晩年の身の回りの世話をした人が財産を承継することができます。

さらに、特別縁故者もいない場合には、財産の引き受け手がいないことになるため、家庭裁判所が選任する「相続財産管理人」が相続財産を清算することになります。

相続財産の清算の結果、プラスの財産が残る場合には国庫に帰属します。国庫に帰属するというのは、相続財産が国のものになるという意味です。具体的には、現金や預貯金は家庭裁判所に引き継がれ、不動産は財務局長に引き継がれます。

ただし、亡くなった方の契約していた生命保険金は受取人として指定された者の固有財産と評価され相続財産には含まれません。このため、受取人の指定がされていれば相続放棄の有無とは無関係に受け取ることができます。

相続放棄を円滑に行うために必要なこと

相続放棄は、限定承認と異なりほかの相続人の同意を得る必要はありません。

ただし、相続人の一人が相続放棄をすると、ほかの相続人が引き継ぐ財産の範囲が変わります。円滑に相続放棄をするためには、あらかじめ、ほかの相続人にも伝えておくと安心です。

相続放棄をする意思が固まったら早めに相続放棄に必要となる書類を準備しておきましょう。また、必要書類は裁判所に提出する前にコピーも残しておきます。

相続放棄ができる期間は3ヶ月と限定されていますので、手続きに不安がある場合には早めに弁護士や司法書士などに相談しておくことをおすすめします。

相続放棄の手続きの流れ

相続放棄の手続きの流れは、次のとおりです。

  1. 被相続人の相続財産を調査
  2. 相続放棄の手続きに必要な書類(戸籍謄本等)を市区町村役場で取得
  3. 相続放棄申述書を作成
  4. 家庭裁判所へ相続放棄申述書を提出
  5. 家庭裁判所から照会書が届く
  6. 照会書と同封されている回答書に記入して返送する
  7. 家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届いたら、相続放棄完了

このうち、家庭裁判所への相続放棄申述書の提出を3ヶ月の熟慮期間内に行う必要があります。なお、相続放棄の手続きをする家庭裁判所は亡くなった方の最後の住所地を管轄する裁判所です。

したがって、亡くなった方が遠方に住んでいた場合には手続きにも多少の時間がかかることを考慮しておいたほうがよいでしょう。

相続放棄に必要な費用

相続放棄の申述書を提出する際に、家庭裁判所に支払う手数料として申述人1人につき800円の収入印紙を収める必要があります。

このほか、管轄の家庭裁判所が指定する郵便切手代を申述人が負担します。裁判所に収める手数料等は変更になることがありますので、事前に家庭裁判所に確認しておきましょう。

これに加え、相続放棄の手続きを司法書士や弁護士などの専門家に依頼する場合には、専門家に支払う報酬も必要となります。報酬金額は専門家によって大幅に異なりますが、相続放棄の場合には50,000円~100,000円程度となることが多いでしょう。

相続放棄は自分でできる?

熟慮期間が経過する前の相続放棄は、自分でできるでしょう。相続放棄の申述は主に書面で行うのですが、裁判所に申述書のひな形が用意されていることが通常です。

亡くなった人が最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所で対応するため、管轄の家庭裁判所に問い合わせて申述書を入手するとよいでしょう。最近では、裁判所の公式ホームページ上にも申述書のひな形が掲載されています。

相続放棄をするときは、申述書のひな形に必要事項を記載して郵送等で提出します。記載する必要事項は、申述をする相続人及び亡くなった人の本籍地、住所、氏名、生年月日、職業などです。

そのほか、「遺産が少ない」、「債務超過」などの相続放棄をする理由を選択する欄や、土地の種類ごとの面積、預貯金や有価証券などの金額を記載する欄もあります。

なお、相続放棄をする場合、相続財産の内容は自己申告の形を取っています。財産目録や財産の内容がわかる資料等の提出は不要です。

裁判所に支払う手数料は、申述する相続人1人につき800円です。手数料分の収入印紙を郵便局等で購入し、申述書に貼付することで納付できます。

なお、相続放棄の申述のためには、亡くなった人の戸籍等の提出が必要です。本籍地が遠方にある場合には戸籍等の取得には時間がかかることがあります。

相続放棄を考えている場合には早めに家庭裁判所に必要書類について問い合わせておくとよいでしょう。

生前に相続放棄はできる?

親が多額の借金を負っているため生前に相続放棄をしたいというケースがあります。ほかにも、兄弟のひとりに全ての財産を相続させたるために、生前に他の兄弟に相続放棄するよう求めたいというケースもあります。

結論として、生前に相続放棄はできません。親の都合で子どもの一部に相続放棄を強制したり、子どもが親の借金を免れるため生前に相続放棄したりすることはできないということです。

ただし、相続放棄と似て非なる制度に遺留分の放棄という制度があります。遺留分とは、遺言と無関係に一定の範囲の法定相続人が得られる最低限の相続財産をいいます。

上記ケースのように子どもひとりに全ての相続財産を相続させたい場合、生前に他の子どもに遺留分を放棄してもらうことは可能です。ただし、本人の意思に反して強制することはできません。

遺留分の放棄は裁判所が判断するところ、裁判所は遺留分の放棄が本人の意思に反していないか、放棄する相続人が代償を得ているかなどの事情を慎重に検討して、遺留分の放棄を認めるか否かを審査する仕組みになっています。

兄弟の一部だけ相続放棄した場合

親が亡くなり子ども3人が法定相続人となるケースを考えてみましょう。なお、親はすでに2人とも亡くなっており、法定相続人は子どもだけと仮定します。

兄弟3人のうち1人が相続放棄したいと考えた場合、その1人が単独で相続放棄をすることは問題なくできます。

それでは、兄弟の一部だけ相続放棄をすると他の兄弟にはどのような影響が出るでしょうか。

相続人の一部が相続放棄するとどうなるか

上記の事例では、もともと兄弟3人の法定相続分は相続財産の3分の1ずつでした。しかし、相続人の一部が相続放棄をすると、相続放棄をした人は最初から相続人でなかったという扱いになります。

したがって、相続放棄後に、残りの兄弟2人の相続分は相続財産の2分の1ずつとなります。

なお、相続財産に含まれる負債も注意する必要があります。相続人の一部が相続放棄すると他の相続人の負担が重くなることがあります。

このような事情があるので、相続放棄をした人は他の相続人に相続放棄したことを早めに伝えたほうがトラブルなく相続手続きを進められるでしょう。

同時に相続放棄することが多い

相続人が相続放棄をするのは多くの場合、債務超過となっているケースです。つまり、亡くなった人の財産のうち、マイナスの財産(負債)が、プラスの財産を上回っている状態で相続放棄が選択される傾向にあります。

そのため、一般的には相続放棄は兄弟その他の相続人全員がそろって行うことが多いといえます。

しかし、会社経営者の相続などでは後継者となる子ども1人に財産をすべて相続させたいというケースがあります。

亡くなった経営者が会社のほぼすべての株式を保有していることが多く、会社の株式が相続財産に含まれているといった状況から発生します。

会社の株式の持分比率によって会社に対する支配力が変わってくるため、相続によって会社の株式が会社経営に関わらない相続人に分散することは、会社経営上は望ましくありません。

そのため、後継者となる人に会社の株式をすべて相続させる必要があります。この場合は、必ずしも相続人全員が相続放棄をするとは限りません。

相続放棄は早めの決断が必要

相続放棄には3ヶ月の熟慮期間があるものの、早めに決断しましょう。

相続放棄をするかを判断するためには、亡くなった方の財産状況を調査する必要があります。家族の誰も知らない財産や借金などが存在している可能性があるためです。

亡くなった方が事業をしていた場合や不動産投資などをしていた場合には、プラスの財産もマイナスの財産も多岐にわたることがあり、相続財産の調査だけでもたいへんな手間がかかります。

相続放棄をすべきか迷っている場合や相続放棄を検討しているが手続きに不安がある場合には、できるだけ早めに司法書士や弁護士などの専門家に相談すると安心です。

この記事の監修

松浦 絢子
資格情報: 弁護士、宅地建物取引士

松浦綜合法律事務所代表。
京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。宅地建物取引士の資格も有している。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産・建築、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。

この記事のポイント

どんな時に相続放棄するのですか?

相続放棄は、亡くなった方の相続財産を引き継ぎたくない場合に行います。
相続財産には借金なども含まれるため、返済の負担を負いたくない・負えないケースなどに相続放棄を検討することが一般的です。

詳しくは「相続放棄は被相続人の財産を一切相続しないこと」をご確認ください。

相続放棄の手続きの流れを教えてください

相続放棄の手続きは、
①被相続人の相続財産を調査
②必要な書類を市区町村役場で取得
③相続放棄申述書を作成
④家庭裁判所へ相続放棄申述書を提出
⑤家庭裁判所から照会書が届く
⑥照会書同封の回答書に記入して返送
⑦家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書受領で相続放棄完了という流れとなります。

詳しくは「相続放棄の手続きの流れ」をご確認ください。

税金が心配? 無料税務・法律相談会

不動産に関する税務、不動産取引上の法律問題などについて詳しくお答えいたします。

無料税務・法律相談会